行政書士の石濵です。先日、10年間住んでいた賃貸マンションが手狭になり、すぐ近くの少しだけ広い賃貸マンションに引っ越しをしました。
 今までは”実家暮らし→単身アパート暮らし”や”単身アパート暮らし→結婚し新婚生活”というような小規模かつ、ほとんどの家財道具は引っ越し後に新品を購入するような引っ越ししか経験がなく、大量の家電や家財の搬送を伴う引っ越しは初めての経験でしたので、とても大変で手間がかかりました。子供を実家に預け、膨大な時間を費やし荷造りを行い、何度も引っ越し業者と打ち合わせを行い、引っ越し距離400mの引っ越しの為に半日以上の時間を費やし、何とか引っ越し作業を終えました。その後、引っ越し業者さんにお礼を言い一息つけるかなと思っていた所、引っ越し業者さんの口から思わぬ一言がありました。記憶違いがあるかもしれませんが、概要はこんな感じです。

「実は、養生が不足していると(マンションの隣に住んでいる)大家さんから強いお叱りを受け、管理会社も含めてトラブルになってしまいました。後日大家さんや管理会社から石濵さんにお話があるかもしれません。」

は?

「でも、養生は不足していませんし、大家さんや管理会社の主張は間違っています。それに養生不足によって傷があるなら証拠があれば保障しますから防犯カメラの画像でも確認して証拠を出してくださいって言っておきましたので(^^♪」

 ここで新生活を行うのは私たち家族で、大家さんや管理会社と今後も関係していくのも私たち家族なのに、なんで相手に喧嘩売ってんだよ・・・。と引っ越し直後からとても落ち込みました。

引っ越し業者の引き起こしたトラブルは注文者も責任を負うの?

 民法の規定で注文者の責任を明確にした条文があります。

第716条(注文者の責任)
注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときにはこの限りではない。

 基本的には注文者は請負人のが第三者に与えた損害の責任を負うことはありません。条文中の「ただし・・・」以降からは一見して養生の指示を怠ったことによる過失があるんじゃなかろうかと受け取る余地があるように感じますが、過去の判例を鑑みるに、第三者への被害がある程度明白でそのことを請負人から注文者に進言があってもなお無視する位の過失が無ければ「注文又は指図についてその注文者に過失」があったとはされません。(あくまでもケースバイケースなので、個別の案件は弁護士の先生等にお問い合わせるのが確実です。)

 また、引っ越し業者は許認可制で、国土交通大臣の許可(軽貨物車両の場合は届け出のみ)をもって業務を行っています。その際に国土交通省から「標準引越運送約款(もしくはそれに準ずる独自の約款として認可されているもの)」を取り入れることとされています。
 この約款の中に、引っ越し業者の責任に関する以下のような条文があります。

第22条(責任と挙証等)
当店は、荷物の受取(荷造りを含む。)から引渡し(開梱こんを含む。)までの間にその荷物その他のものが滅失し若しくは損傷し、若しくはその滅失若しくは損傷の原因が生じ、又は荷物が遅延したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負います。ただし、当店が、自己又は使用人その他運送のために使用した者が、荷物の荷造り、開梱、受取、引渡し、保管及び運送について注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りではありません

 つまり、引っ越し及びその付帯する業務で扱うものに関し注意をしなければ行けないのは引っ越し業者であり、注意を怠らなかったことを証明する必要があるということです。
 「だって注文者から養生の指示されてないもーん」は通用しないことが分かります。

標準引越運送約款では何が定められているの

 全部で9章、第29条まであります(最終改正平成31年4月1日国土交通省告示第321号)。内容はそれぞれ以下のような内容となっています。国土交通省の作成意図として、消費者の保護の明確にし、わかりやすく表現することが挙げられているため、普段法律文章を読む機会が少ない方でも簡単に理解できる内容となっています。詳しくは以下のリンクをご確認ください。

国土交通省HPより 標準引越運送約款(平成二年運輸省告示第五百七十七号)

なお、概要は以下のようになります。

1章 総則
 適用範囲や定めのない場合の対応について記載されています。

第2章 見積もり
 見積もり書に記載すべき内容や見積書に記載のない請求についての扱いが記載されています。
 見積もり取得後に契約を結ばなかった場合の一部費用の請求に関してのトラブルが非常に多いです。事前にこの約款に目を通しておくと、契約前の請求に関するトラブルのほとんどを未然に防ぐことができます。

第三章 運送の引き受け
 運送を引き受けることができない(拒絶する)場合についてや運送手段について書かれています。

第四章 荷物の受け取り
 荷造りに関することが中心です。特別な約束がない場合、荷造りは誰が行うのか、また荷造りに不備があった場合誰が責任を負うのかが記載されています。

第五章 荷物の引き渡し
 荷物の引き渡しに関し、受け渡しができない場合の対応や受け渡しトラブルの免責事項が記載されています。

第六章 指図
 注文者が引っ越し業者に行う指図について記載されています。

第七章 事故
 引っ越し業者が請け負った荷物をなくしてしまった時の対応が記載されています。

第八章 運賃等
 運賃の額や適用方法に加え、解約時の手数料やその他に必要となる費用に関して記載してあります。この項の内容も非常にトラブルが起こりやすい部分となります。

第九章 責任
 トラブル時の責任の所在及び免責事項に関して記載してあります。トラブル回避の為にぜひご確認ください。

 いかがでしょうか。今回はここまでとします。今後とも何卒宜しくお願い致します。