こんにちは。行政書士の石濵です。今回解説する条文は、前回触れた特別の方式の遺言に関する細かなルールが中心となります。
特別な方式の遺言とは、死期が迫った際に特別に行うことができる遺言や、隔離された状況でのみ行うことができる遺言等、通常の遺言とは一線を画すものでした。覚えていらっしゃいますでしょうか。
これでは解説に入ります。
第980条(遺言関係者の署名及び押印)
第977条及び第978条の場合には、遺言者、筆者、立会人及び証人は、各自遺言書に署名し、印を押さなければならない。
この条文に出てくる第977条(伝染病隔離者の遺言)及び第978条(在船者の遺言)はどちらも隔離された状態の中で、公証人を介さないで公正証書遺言を行うという、非常に不正の余地がある遺言形式となっていますので、遺言者をはじめとする関係者各位に署名押印を求めています。
第976条(死亡の危急に迫った者の遺言)や第979条(船舶遭難者の遺言)の方が、より不正の余地がありそうですが、命の危機の際に署名だの押印だの言ってられませんしね・・・。
第981条(署名又は押印が不能の場合)
第977条から第979条までの場合において、署名又は印を押すことのできない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を付記しなければならない。
第977条、第978条に規定される隔離者及び、第979条に規定される署名、押印を要求される者が、印を持っていなかったり、手指に怪我を負っている等の事由で署名や押印ができない場合の規定です。できない理由を付すことにより、ひとまずは作成された遺言書は(一旦は)法的効力を持ちます。その後に関しては第983条を併せてご確認下さい。
第982条(普通方式の方式による遺言の規定の準用)
第968条第3項及び第973条から第975条までの規定は、第976条から前条までの規定による遺言について準用する。
第968条第3項(自筆証書遺言に加除その他変更を行う際は、変更場所の指示及び署名押印が必要との規定)及び第973条(成年被後見人の遺言)、第974条(証人及び立会人の欠格事由)、第975条(共同遺言の禁止)に関する、普通の方式の遺言作成のルールを、特別な方式の遺言にも当てはめることになるというルールです。
第983条(特別の方式による遺言の効力)
第976条から前条までの規定によりした遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から6か月間生存するときは、その効力を生じない。
第976条から前条までの、いわゆる特別方式の遺言では、緊急対応ということもあり、通常の遺言と比べ担保される正当性が薄い(公証人がいない事や、証人がたまたま居合わせた人になる等)部分があることは否めません。それでも遺言を作成する権利を保護する為に特別な方式の遺言作成を認め、それに法的効力を付しています。(後々の家庭裁判所の判断も大きいのですが・・。)ですが、危機的状況が去った後は、元々のルールに乗っ取って遺言を行うことが可能との判断から、このような取り決めとなっています。
第984条(外国に在る日本人の遺言の方式)
日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事が行う。
民法第969条の1(公正証書遺言)及び第970条(秘密証書遺言)公正証書遺言や秘密証書遺言を作成する際には、公証人の関与が求められています。アメリカなんかでは日本の公証人に相当する”ノータリーパブリック”という専門家の方もいますが、我々がアメリカの当該州の法律を熟知していないように(当然詳しい方もいらっしゃると思いますが、当方は熟知していません)、彼らも日本の法律を熟知していないケースがあり、結果として日本においては法的拘束力のない遺言書となってしまう可能性があります。また、そもそも”公証人”のようなものが存在しない国もあります。
そこで、民法では、外国で遺言を作成する際には、公証人の職務を領事館に居る”領事”に行わせることとなっています。
なお、お気づきの方もいらっしゃいますが、日本と国交がない国では日本の領事館が存在しない為、この条文に乗っ取った遺言を作成することはできません。
さて、今回は以上となります。また次回もよろしくお願い致します。