こんにちは。行政書士の石濵です。今回は相続に関する民法解説の続きをします。前回は中途半端な箇所で終わってしまったので第947条と、表題である財産分離に関する条文の途中からとなりますが、よろしくお願い致します。

第947条(相続債権者及び受遺者に対する弁済)
①相続人は、第941条第1項及び第2項の期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。
②財産分離の請求があったときは、相続人は、第941条第2項の期間の満了をもって、財産分離の請求又は配当加入の申出をした相続債権者及び受遺者に、それぞれの債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。但し、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。
③第930条から第934条までの規定は、前項の場合について準用する。

 第941項は相続債権者又は受遺者の請求による財産分離の項です。①では相続債権者又は受遺者は相続開始から3か月以内であれば家庭裁判所に財産分離を請求できるため、また家庭裁判所が財産分離を命じた後に再配当の加入の公告を出してから一定期間(2か月以上)は再配当すべきものが未確定である為、誰にいくら弁済するのか確定するまでは、それを理由に弁済を拒むことができる旨が記載されています。
 ②では、①の期間が終了したときは、財産の割合に応じて弁済をしなければならない旨が記載されています。また、但し書きで特別な権利(留置権や質権など)があるものの利益を妨げられない旨が書かれています。
 ③では、限定承認をした相続人の弁済(第930条~第934条)についてもこの項で言う相続債権者及び受遺者と同様に扱う事が書かれています。

第948条(相続人の固有財産からの弁済)
財産分離の請求をした者及び配当加入の申請をした者は、相続財産をもって全部の弁済を受けることができなかった場合に限り、相続人の固有の財産についてその権利を行使することができる。この場合においては、相続人の債権者はその者に先立って弁済を受けることができる。

 財産分離の請求及び配当加入の申請をした者は、分離された相続財産によって満額の弁済が受けらなかった場合にのみ、相続人固有の財産から弁済を受けることができます。これは「(限定承認を除いて)相続人は被相続人の財産と同時に義務も承継する」という観念から当然かと思われますが、元からいた相続人の債権者の立場が不安定になる恐れがあるので、弁済を受ける順序が元からの債権者→被相続人の債権者(相続したことにより相続人が債務者となった)という順序になります。

第949条(財産分離の請求の防止等)
相続人は、その固有の財産をもって相続債権者若しくは受遺者に弁済をし、又はこれに相当の担保を供して、財産分離の請求を防止し、又はその効力を消滅させることができる。但し、相続人の債務者が、これによって損害を受けるべきことを証明して、異議を述べた時は、この限りではない。

 財産分離を請求する理由とは、債権者の弁済を受ける権利を守るためにほかなりません。その権利が守れるのであれば、弁済は誰の財布から出ても問題ないはずです。例えば土地を相続した相続人に対し相続債権者が「財産分離を申請したから土地を売って現金化して弁済しろ。相続人の財布から出すな」という事はできません。
 但し、第948条にもありましたが、相続人の財布から弁済をすると場合によっては元から相続人の債権者だった者の立場が不安定になったり、何らかの損害がある場合は異議を述べることができます。

第950条(相続人の債権者の請求による財産分離)
①相続人が限定承認をすることができる間又は相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、相続人の債権者は、家庭裁判所に対して財産分離の請求をすることができる。
②第304条、第925条、第927条から第934条まで、第943条から第945条まで及び第948条の規定は、前項の場合について準用する。但し、第927条の公告及び催告は、財産分離を請求した債権者がしなければならない。

 第941条の「相続債権者又は受遺者の請求による財産分離」と似たような内容だと思われるかもしれませんが、こちらは相続債権者を対象としているのではなく、元から相続人に債権を有していた人を保護する為の条文です。
 ①では、元から相続人の債権者だった人が、相続人が負債を相続して自らの立場が不利になる前に財産分離を請求することができるという内容です。
 ②では、①の場合のルールとして第304条(物上代位)、第925条、第927条~第934条、第943条~第945条、第948条に記載されているルールを適用することが書かれています。これらの条文は限定承認や相続債権者や受遺者が分割請求をする際のルール等になります。(是非過去のブログで条文の内容をご確認ください)
 なお、第927条に記載されている公告(ここでは官報に掲載し広く伝える事)及び催告(お返事くださいと催促すること)は財産分離を請求した債権者が自ら行わなければいけないことが書かれています。

今回は以上となります。また次回も宜しくお願い致します。