こんにちは。行政書士の石濵です。今回は民法第896条以降の相続の効力についての条文を解説いたします。相続できるものの説明や相続人が複数いた場合の相続割合の説明などが明示されている条文となります。順を追って一つずつ見ていきましょう。

第896条(相続の一般的効力)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

 前半部分では相続人は相続が始まった時から、正の財産(現金等価値のあるもの、権利)だけでなく負の財産(借金等価値のないもの、義務)も含めて包括的に受け継ぐことが明示されています。
 また、後半部分では、被相続人のみが持ち得る、他人に受け渡すことのできないもの(これを一身専属権と言います)は除かれることが書かれています。例えば行政書士や弁護士の資格や年金の受給資格、親権等がこれに当たります。また、よくあるケースで被相続人の損害賠償請求権は一身専属権とは言えず、相続した人が行使することが可能となります。余談ですが、損害賠償請求権は事が起こってから20年が経過するか、損害賠償請求ができる事象を知ってから3年が経過すると時効となったしまうため注意が必要です。

第897条(祭祀に関する権利の承継)
①系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
②前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

 ①では、第896条の規定がありつつも、お墓や仏壇の所有権は慣習(先祖代々の古いしきたり等)に従って受け継ぐことが明示されています。ちなみに、相続放棄(第939条で説明します)をした場合でもお墓や仏壇を受け継ぐことができます。
 ②に関してはそのままの意味で、揉めた場合は家庭裁判所が受け継ぐ者を定める事が明示されています。また、受け継ぐ者は①にあるように第896条の規定に影響されないわけですから相続人に限らず全く別の人でも良いわけです。

第898条(共同相続の効力)
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

 相続人が1人の時は当然その1人が相続することとなりますが、相続人が複数ある場合には、一旦相続人全員の共有財産となり、その後遺言のある場合は(相続人全員の同意がある場合を除き)遺言に従い分配され、遺言の無い場合は遺産分割協議を経て遺産を分配します。共有財産ですので、共有物の全体を単独で処分することができなくなる為、分配前の財産への実力行使の抑止の効果があります。

第899条(共同相続の効力)
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
第899条の2(共同相続における権利の承継の対抗要件)
①相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
②前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

 前半の共同相続の効力の部分(第898条)に続く部分では分配されていない財産であっても、みずからの持ち分に応じて権利を行使し、義務を履行する必用が出てきます。例えば、被相続人に債務があれば、各相続人に割合に応じ債務を弁済する義務が発生します。ですが、これはあくまでも一例で、この条文に関わる多くの判例が存在する為、事象に応じて判例を確認するか、弁護士さんや司法書士さん、行政書士さんに確認をしてください。
 さて、後半部分ですが、これは2019年7月に施行された新しい条文です。旧来では原則として、相続の際に遺言書があれば、その内容を知らない善意の第三者に対し、相続分の権利を主張することができました。例えば、2人いる相続人のうち一方に借金があり、貸主がその借金の取り立ての為に共有財産である土地の差し押さえをしたとしましょう。このケースで遺言書があり、その内容が借金のない相続人に土地を相続させるという内容だった場合、貸主が借金のある片方の相続人の借金弁済の為に土地を差し押さえることはできませんでした。これは、貸主が遺言書の内容を知っていても知らなくてもです。ところが、新しい第899条によると、901条を超える部分(法定相続分を超える部分)に関しては、遺言書にある相続人が登記を済ませなければ貸主に対して権利を主張できなくなりました。遺言書の内容にかかわらず、法定相続分を超える部分に関しては必ずしも遺言の通りにならず、事情を知らない第三者を保護する形になったのです。
 また、②では、債権に関し、例え遺言書があっても、その内容を債務者に通知をしなければ法定相続分を超える債権を第三者に主張できないことが明示されています。

 今回は以上になります。わかりにくい部分が多くあると思いますが、このあたりの内容は個別の事例を出せばわかりやすくなると思います。詳しく知りたい場合は個別事例をもって専門家に問い合わせてください。