こんにちは。行政書士/社会保険労務士の石濵です。先日、社労士会の支部で“ハラスメント対策と連携の実際について”という講義がありました。私は現在も行政書士/社会保険労務士以外の事業で小さいながらも法人を経営していますし、以前にはパートさんやアルバイトを多数雇用した食品関係の会社の経営者だったこともあって、非常に興味深く拝聴させて頂きました。

 今回の講師をお勤めになられた式会社ハーモニークリエイションの白石先生という方で社労士の先生方とタッグを組み、数多くの労使間(あるいは労働者間)トラブルを解決してきた実績を持っています。
 ハラスメントに関する知識があまりない状態で今現在ハラスメントに関連するトラブルを抱えている経営者の方がいらっしゃって、是が非でも早急な解決を望まれている場合は社労士以外にハラスメント対策の専門家に解決を依頼しても良いかもしれません。ハラスメントに関する知識があまりない社労士の先生もいらっしゃいますからね。

 ただし、ハラスメント対策を外部組織に委託する場合であってもハラスメントに関する正しい識見と知識は経営者にとって必要不可欠なものとなっています。なぜでしょうか。それは以下のような理由によるものです。

  • パワハラ防止法の施行(大企業は2020年に、中小企業においても2022年4月に施行)
  • ハラスメントによる重大事件(くら寿司、ハシモトホーム等)による企業イメージの低下
  • SNS等でのハラスメント情報共有による新規採用の難化
  • ハラスメントによるコミュニケーション不足や雰囲気の悪化    等

 このようにハラスメントによる労働者視点から見ても、経営者視点から見ても相当な経済的損失があることがうかがえます。特に昨今ハラスメントが元となる重大事件が頻発していることになり、企業経営において本業の業績とは別の所で企業が社会的に追い込まれるケースも多く、ハラスメントに対する対策が必要となってきます。
 一言でハラスメントと言っても様々な種類があり、すべてを一度に解説するのは非常に困難なため、今回は“パワハラ”に限定して解説します。

パワハラ防止法

 まずは、パワハラの定義について統一します。世間一般では部活動や学校生活の先輩後輩、その他趣味サークル内なんかでもハラスメントが発生した際には「パワハラ」という表現をすることがあります。
 今回解説するパワハラ防止法はいわゆる会社内でのパワハラに関する規定となっているため、社外でのパワハラとは分けて考えなければいけない部分もあります。
 「社内、社外問わず上の立場の者が下の立場の者に何らかの強要をしていることは、間違いなくパワハラにあたる」という認識をもつ方も当然いらっしゃると思いますが、今回説明するパワハラ防止法はあくまでも会社内でのパワハラを防止し、労働者の環境改善を目指すための法律と認識してください。

パワハラ防止法とは

 一般的にはパワハラ防止法という呼称で呼ばれていますが、正式には労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び就業生活の充実等に関する法律(以下、労働施策総合推進法と略)という名称の法律でパワハラ防止以外にも労使間の労働環境の改善に関する定めや従業員の募集、採用に関する定め、外国人の雇用管理に関する定め等も盛り込まれています。この法律に2019年よりパワハラ防止に関する内容が盛り込まれ、パワハラ防止法と呼ばれるようになり現在に至ります。
 もともとは労働施策総合推進法は「雇用対策法」という名称で1966年に制定され、世上の変化に対応した形に何度も改正され、2018年に現在の名称である労働施策総合推進法という名称となりました。上に記載したように従業員の募集採用に関する定めや外国人の雇用管理に関する定め等労働問題に関してその時代に必要な内容を取り入れ変化している法律であり、2019年改正時にハラスメントに関する内容が言及されたということは、その時代がハラスメントに関する定めを必要としていることが読み取れます。

パワハラの定義

 労働施策総合推進法の条文内で以下のように定められています。

労働施策推進法 第30条の2(雇用管理上の措置等)

事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることがないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応する為に必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

 また、さらに詳しい言及が厚生労働省の示した指針(令和2年厚生労働省告示第5号)及び厚生労働省の都道府県労働局雇用環境・均等部の発行するリーフレットにありました。そこには“職場におけるパワーハラスメント”とは①優越的な関係を背景とした言動であること➁業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること③労働者の就業環境が害されるものであることの①➁③すべての要素を満たすものとされ、①➁③のいずれかを満たさないものや主観的には①➁③を満たしていると感じても客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導などはパワハラには該当しません。

 もう少し、詳しく見ていきましょう。

①の優越的な関係を背景とした言動って

 優越的な関係を背景とした言動とは、発信者が受信者に発した言動で立場の違いから抵抗や拒絶することが難しい言動を指します。例えば組織内において上司や先輩等自分よりも立場が上の者からの言動で、抵抗や拒絶をすると業務遂行に差支えがあったり必要な助言等が与えられなくなったりする可能性のある言動などです。
 これは上司から部下に、先輩から後輩に等立場の上の者が発信者になる場合だけでなく、部下や後輩から上司、先輩に対して発信する場合にも該当するケースがあります。例えば、立場が下であってもある特定の専門知識のある部下の協力が得られなければ業務遂行に支障がある場合の部下の言動がそれにあたります。

➁の業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動って

 社会通念に照らし、その言動が明らかに業務上必要でない言動であったり、又はその態様が相当でない言動を指します。
 明らかに業務上必要でない言動とは、例えば私生活における趣味や交際遍歴、家族構成などを執拗に問い詰めたりする言動がこれにあたります。
 また、態様が相当でない言動とは、業務上の強い叱責等が該当するのではないでしょうか。一般的には上司が部下に対し業務上の理由で叱責、警告をするケースは実際に良く目にするはずです。当然常識的な範囲での叱責、警告等は全く問題なく、むしろ、これらを怠って自らが職務怠慢との烙印を押されるケースもままあります。
 常識的な範囲での叱責、警告等によってパワハラ認定されるケースは多くはありません。ですが、常識的な範囲を超えての叱責、警告灯はパワハラ認定されるケースもあります。また、常識的な範囲は事象によって異なる場合があり、例えば通常の事務作業従事者と命の危険のある高所作業従事者が同じように「いい加減にしろ、馬鹿野郎!」と叱責された場合、前者はパワハラ認定されたのに後者は認定されないというようなケースもあります(パワハラの認定は複合的な要因により判断される為、当該ケースでもどちらもパワハラ認定されない、又はどちらもパワハラ認定されるケースも当然あります)。このあたりの線引きは非常に難しいのが現状です。

③の労働者の就業環境が害されることって

 当該言動によって言動の受信者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の言動の受信者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることがこれにあたります。
 これは、「平均的な労働者の感じ方」で判断される為、例えば「前任者の〇〇さんは特に問題視していなかった。」等がパワハラの判断材料になることはありません。あくまでも社会一般の労働者の感じ方が基準となるからです。

パワハラの代表的な言動の類型の解説と考察

 厚生労働省のHPにパワハラの代表的な言動の類型ごとにパワハラに該当すると考えられる場合と該当しないと考えられる場合をまとめた一覧がありましたので一部抜粋して紹介します。この内容は“事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令2.1.15厚労告5号)”に詳しく記載されています。
 厚生労働省のHPにも注意書きがありますが、この一覧表内で「パワーハラスメントに該当すると考えられる例」に合致したとしても、個別に状況によっては判断が違ってくる可能性がありますのでご注意ください。

 さて、この表を見て、何を思われますか?
具体例を挙げてはいますが、ほとんどが程度問題となっています。例えば(2)精神的な攻撃の中で、パワハラに該当すると考えられる例④「相手の能力を否定し、罵倒するような電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛に送信する」という項があります。
 当該内容がパワハラと判断できるのはよく理解していますが、相手の能力を否定し、罵倒するような電子メールを当該相手のみに送信した場合はパワハラにあたらないのでしょうか。また、このようなメールを当該相手を除いた複数の労働者に送信した場合はどうなのでしょうか。おそらくいずれもパワハラの定義である三要素を満たしているのでパワハラに該当するものと思われます。

 さて、ここまででパワハラとはどういうものかはなんとなく理解できたと思います。ここからはそのパワハラを未然に防いだり、今現在パワハラが蔓延しているのであればそれを撲滅する為にパワハラ防止法(労働施策総合推進法)で定められている内容を説明します。

パワハラ対策としてしなければならないこと

 さて、当然のことですが、労働施策総合推進法ではパワハラの定義付けの他にもパワハラ対策としてしなければならないことが定められています。パワハラの定義に関するこうでも紹介した条文となりますが、再度ご確認ください。

労働施策推進法 第30条の2(雇用管理上の措置等)

事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることがないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応する為に必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

 パワハラの定義の項では当該条文の前半部分に注目しましたが、今回は後半部分にご注目ください。事業主がしなければならない内容が記載されています。
 とはいっても、具体的には何をすればよいのかこの条文からは読み取れません。
 具体的な事業者の責務は“事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令2.1.15厚労告5号)”に詳しく書かれています。以下、内容の抜粋要約です。

①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

 事業主は、自社のパワハラ防止、抑止に関する方針を定め、その方針を周囲に周知、啓発しなければなりません。具体的には

  1. 職場におけるパワハラの内容及び職場でパワハラを行ってはいけない旨の方針の明確化
  2. 職場でパワハラと認められる者を厳正に処分する旨を方針とした内容を就業規則等にに規定し、その内容を周知啓発すること

となっています。

 周知、啓発をするうえで、「パワハラとは何か」ということをまずもって従業員に教育することが必要となります。それがなければ意味ないですよね。。。

 1.2共に方針をただ定めるだけでは不十分で方針を就業規則又は服務規程書等(1の場合は社報、HPでも可)に規定しなければなりません。

➁相談又は苦情等に対し柔軟に対応する為の措置の実施

 わかりにくいですが、要はパワハラに関する窓口を定めなければいけないという規定になります。具体的には以下の内容を定めなければなりません。

  1. 相談又は苦情の対応のための窓口を定め、労働者に周知すること
  2. 1の相談窓口の担当者が相談に対し、適切に対応できるようにすること

 1に関しては自社内で窓口を設置してもかまいませんし、外部の窓口を利用してもかまいません。公認心理士や産業カウンセラー等の有資格者を設置しなければいけないという規定もないのですが、上記2の後半部分“(相談窓口の担当者が相談に対し)適切に対応できるようにすること”を満たすのは難しい部分もあります。これらの元資料となる指針によると“相談窓口において、被害を受けた労働者が委縮するなどして相談を躊躇する例もあることを踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら職場におけるパワーハラスメントが現実に生じている場合だけではなく、その発生の恐れがある場合や職場おけるパワーハラスメントに該当するか微妙な場合であっても広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること”と規定されています。

 これは義務であり、経営者があまり深く考えずに適当でない人材を相談窓口としてしまうと仮に労働者とパワハラによる紛争が発生した場合、労働者から「相談窓口が指針通り機能していなかった」と突っ込まれる可能性があります。窓口担当者にはよほどの教育を施すか、あるいは外部の窓口を検討してもよいのかもしれません。

③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

 ここでは、パワーハラスメントが発生してしまった場合、事業主が何をどのようにしなければならないかが規定されています。先ほど相談窓口について解説しましたが、窓口が対応した後は必ず事業主の責任のもと適切な対応を取らなくてはなりません。「窓口にすべて任せた」では済まされないのです。

 さて、具体的に取らなけれなならない対応は以下のようになります。

  1. 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること
  2. 事実関係を確認し、パワハラであると確認できた場合には速やかに被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
  3. 職場におけるパワハラが確認できた場合には行為者に対する措置を適正に行うこと
  4. 事案がパワハラとして確認できた、できないにかかわらず自社のパワハラに関する方針を再周知、啓発等の、再発防止に向けた措置を講ずること

 1は実際に相談を受けた窓口担当者や人事部門の担当者などが被害者、行為者いずれにも話を聞き、場合によっては第3者にも話を聞いた上で事業主の責任下において判断することとなります。

 ただし、判断が非常に難しいケースも容易に想像できるため、判断がつかない場合はパワハラに詳しい社労士や弁護士等の意見も参考にすべきです。また、労働施策総合推進法の30条の7には労働者が労働局に対し調停の申請ができる旨が記載されているので、調停による第3者判断という手もあります。

 2は、被害者のメンタル面のケアももちろん大切になりますが、その後の業務環境の改善にも力を入れなければなりません。事案後、被害者が希望するのであればできる限り就業場所や指示体系を分離するなどの対策が効果的です。また、同じ部署や隣接部署で業務せざるを得ない場合には環境を整備した後に行為者に謝罪を促したり、両者わだかまりなくその後の業務ができるように関係改善の場を設ける等が考えられます。

 いずれにしても被害者が働きやすい環境をつくることが大切です。

 3は、行為者が例えば重役だったり、担当部署のエース格であったとしても就業規則又は服務規程等にあらかじめ定められたパワーハラスメントに対する措置の規定通りの対応を実行することが求められています。行為者のポストや業務遂行能力等によって規定の適用の有無が変わるようなことはあってはなりません。

 4は、再度の従業員教育を求めた内容です。再教育は当該事案がパワーハラスメントかどうかにかかわらず実施されなければなりません。仮にパワーハラスメントとは言えないような内容であったとしても、少なくとも行為者と被害者の間で何らかの相容れない事柄があったことは明確なので、同様の事案が再発しないようにしなければなりません。

④その他①➁③と併せて講ずるべき措置

 ①➁③に加え、事業主は以下を実施しなければなりません。

  1. 事案の行為者、被害者のプライバシー保護に関する必要な措置及び当該措置を実施することの労働者への周知
  2. 労働者が相談窓口に相談したことや、当該事案解決の為に事実を述べたこと(例えば暴力を振るった事を認めた等)又は労働局等の行う措置(助言、援助、調停等)を利用したことを直接の理由として、解雇その他労働者に不利益を行わない旨の定め及びその定めの労働者への周知

 1は、具体的には「どうやったら行為者、被害者のプライバシーを守れるか」ということを事前にマニュアル化し、相談窓口担当者へ周知しておくことや、社内外に当該プライバシーを守る措置をしていることを周知することが必要となります。

パワハラをしやすい人、しにくい人

 さて、ここまではパワハラの定義及びパワハラ対策について述べました。ここからは株式会社ハーモニークリエイションの白石先生の研修で先生からご教授頂いた内容を少しご紹介します。
 白石先生の研修で一番心に残っている言葉は「アンコンシャス・バイアス(無意識下での根拠のない偏見)がハラスメント言動をしてしまう原因」です。

 それくらい我慢しろよ!
 社会人だったら常識だろ!
 そんなこと言われなくてもわかるでしょ!
 空気読めよ

 要するに、自分の価値観に絶対的な自身があり、かつ自分の価値観は社会的に認められているという考え方です。このような考え方が強い方は、パワハラするつもりもなく、またパワハラに該当するようなことをしてしまっても加害者意識がほとんどないため、何度もパワハラを繰り返してしまうそうです。
 ですが、すべてにおいて自分の価値観を客観的に見ることは非常に困難です。あなたも自分の考え方を相手に押し付けてしまうことはありませんか。

パワハラをする人の12の特徴

 パワハラをする人はこのような特徴があることが非常に多いそうです。

  1. 自己中心的
    • 思い通りにならないと常にイライラ
  2. 根性論
    • 目標達成できないのは努力が足りないから
  3. 他責
    • 失敗は全て他人のせい
  4. 正論
    • 自分の考えが100%正しいと思っている
  5. 朝令暮改
    • 話がコロコロ変わる
  6. 責任放棄
    • 嫌な事を部下に押し付ける
  7. ご機嫌取り
    • 上司に対しておとなしい、媚びを売る
  8. 完璧主義者
    • 少しのズレも許さない
  9. 臆病者・小心者
    • コンプレックスを抱えている
  10. 嫉妬心
    • 人と比べる
  11. 孤独
    • 一人ぼっちで孤独を抱えている
  12. 視野狭窄
    • 一人を執拗に攻撃する

 いかがでしょうか。あなたにも当てはまる部分があるのではないでしょうか。私にもいくつか心当たりがあります。
 ということは、自分自身もパワハラ被害者になる可能性があるのと同時にパワハラ加害者になってしまう可能性がありうるということです。
 それでは、自らが加害者にならないためには何をどうすればよいのでしょうか。

自らがパワハラをしないようにするために

 パワハラをする人の12の特徴で自分もパワハラをしてしまう可能性があることはわかりました。その可能性を少しでも少なくするために、自らの言動を今一度パワハラの定義に当てはまるかどうかを確認しながら発言するのはどうでしょうか。

 パワハラの定義は
①優越的な関係を背景とした言動であること
➁業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
③労働者の就業環境が害されるものであること
でしたよね。

例えば、部下に業務に関する何らかの指示を出したい場合「上司の立場での言動だから定義①は満たしている、でも業務上必要かつ相当な範囲を超えていないので➁は満たさない、定められた勤務時間内に対応可能なので③も満たさない」のように考えるとパワハラととらえかねない発言を事前に防ぐことができるのではないでしょうか。


今回はここまでです。ご覧いただきありがとうございました。