こんにちは。行政書士/社会保険労務士の石濵です。今回は労働基準法で定められている労働時間に関するルールを説明します。
 あなたは就職活動をする際に何を基準として今の会社に決めましたか?やりたい仕事だから?賃金が多いから?
 人によってさまざまな理由があると思いますが、「労働時間が短い(あるいは残業が少ない)から」という意見も多いのではないでしょうか。人によっては仕事の内容や賃金と同じくらい重要視している労働時間ですが、皆様は労働基準法で決められている労働時間に関するルールをご存じでしょうか。「興味はあるけど詳しくない」という方は今日という機会に少し勉強しましょう。

労働時間とは

 労働時間とは基本的には仕事をしている時間のことです。ですが、サラリーマンの場合、仕事と仕事以外の線引きが結構難しい場合があります。
 例えば、自発的に出勤時間を早めて出社し、業務で使用する鉛筆を削っていた場合、それは労働時間とみなされるのでしょうか。あるいは終業後に自発的に翌日の業務の準備をしていた場合、それは労働時間とみなされるのでしょうか。また、上司に席で待機を命じられた場合それは労働時間なのでしょうか。
 判例によると、労働時間とみなされる為には、“使用者の指揮命令下に置かれているか”及び“使用者の明示あるいは黙示の指示によって労働者が業務に従事しているか”の2点を労働契約、就業規則、労働協約等の定めの如何によらず客観的に判断されることとなっています。

労働時間になる例

  • 使用者に指示された、何もしなくてもよいが何かあった時は対応しなくてはいけない手待ち時間
  • 使用者から指示(黙示の指示含む)された研修時間
  • 参加が義務となっている社員旅行
  • 始業前の着替えの時間
  • 始業前のラジオ体操時間
  • 終業後の終礼時間

労働時間とはみなされない場合の例

  • 通常の通勤時間
  • 拠点間の移動時間(所定労働時間外かつ移動時間を自由に利用できる場合)
  • 自由参加の研修会や勉強会
  • 一般健康診断の受診に要した時間

 なお、上記労働時間とみなされる場合、労働時間とみなされない場合はあくまで例で実際には個別具体的に判断されます。例えば自由参加の研修会は業務に含まれませんが、その参加が賞与等の査定に大きく影響する場合は労働時間とみなされる場合があります。

法定労働時間と所定労働時間

 労働時間には法定労働時間所定労働時間という2つの概念があります。労働契約などで会社によって定められている就業時間が所定労働時間であり、法律によって定められている就労の上限となる時間が法定労働時間となります。原則として所定労働時間は法定労働時間を超えることはできません。

通常の法定労働時間

法定労働時間のルールは1日の労働時間と1週間の労働時間の2通りが存在します(労働基準法第32条の1)。

労働基準法第32条の1(労働時間)

①使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
➁使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

 また、ダブルワーク、トリプルワークの場合は通算して1日8時間、週に40時間を計算します。ダブルワーカー、トリプルワーカーとして複数の使用者の下で労働を行う際には、後で労働契約を締結した使用者が1日8時間、1週間で40時間を超えないように調整をしなければなりません。
 後述しますが原則的には使用者は法定労働時間を超えて労働させることはできませんが、ある一定の条件のもと、法定労働時間を超えて労働させることができます。ただし、法定労働時間を超えて労働させる場合には通常の賃金とは別に時間外の割増賃金を支払わなければなりません。その際にも同様の考え方で後に労働契約を結んだ使用者が時間外労働の割り増し賃金を支払こととなります。

法定労働時間の特例措置

 常時10人未満の労働者を使用する事業のうち商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業、接客娯楽業については1週間の法定労働時間は44時間となります。
 ここで言う常時10人未満というのは事業現場ごとに10人未満という意味で運営会社の総従業員数のことではありません。また、パートやアルバイト等も含まれますが、繁忙期のみの一時雇用がある場合はこれらは数には含まれません。
 これは1984年まで法定労働時間が週48時間だったのが時代と共に変化して現在の法定労働時間週40時間になったのはいいが、それに対応できない零細サービス業に対応した制度と言えます。

法定休日とは

 労働基準法では労働時間の上限と共に、労働者に休日を与えなければいけない旨も定められています(法定休日)。休日とは、労働契約上労働者が労働義務を負わない日であり、原則として午前0時から午後12時までの完全な1日である必要があります。
 ただし、例外として8時間の三交代連続勤務を行う場合に限り、継続24時間の休息で休日とすることもできます。

休日日数の規定

 休日は原則として毎週少なくとも1回付与しなければなりません。その際に曜日の規定は特にない為、必ずしも日曜休みを基本とする必要はありません。
 また例外として、1週間のうちに1度も休みを付与できなかったとしても、4週間に4回の休みを与えれば問題ありません。これを変形休日制と言います。この変形休日制を採用するためにはその旨を就業規則に記載(就業規則作成義務のない小規模事業の事業者は労働者への周知のみで可能)しなければなりません。

時間外、休日に労働させる必要がある場合は

 原則は法定労働時間を超えて、あるいは法定休日に労働させることはできませんが、例外として次の場合には法定労働時間を超えて、あるいは法定休日に労働させることができます。

①災害等の臨時の必要がある場合

  • 災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合
  • 使用者が諸葛労働基準監督署の許可を受けること(事態窮迫により許可を受ける暇がない場合は事後届出でも可)

 以上のいずれも満たす場合は、その必要の限度において時間外労働又は休日出勤をさせることができます。原則労働基準監督署の事前許可が必要なため乱用することはできません。

➁公務の為に臨時の必要がある場合

 公務員のみに適用される規定です。公務の為に臨時の必要がある場合は許可や届出無しで時間外労働や休日出勤をさせることができます。

③36協定を締結し届け出た場合

 通常の経営者にとってこれが唯一の現実的な方法となります。使用者と従業員の過半数代表(労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は当該労働組合)とで36協定という協定を締結し、それを労働基準監督署へ届け出ます。

36協定で定めなければいけない事項

 36協定の名称は労働基準法第36条から来ています。第36条1項では、36協定を締結すれば時間外労働及び休日出勤をさせることが可能となる旨が、そして2項(及び労働基準法施行規則17条1項)では定める内容が記載されています。内容は以下の通りです。

特別条項付き36協定

 通常の36協定では限度時間を超えて時間外、休日労働をさせることはできません。ですが、当該事業場での通常予見することのできない業務量の大幅な増加に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合には限度時間を超えた時間外、休日労働を命じることができます。
 当然のことながら特別条項付き36協定を適用しても無制限に時間外、休日労働をさせることができるわけではありません。具体的には以下のようになります。

その他36協定の要件

  • 坑内労働その他厚生労働省で定める健康上特に有害な業務について1日について労働時間を延長して労働させた時間が2時間を超えないこと
  • 1か月について労働時間を延長して労働させ、および休日において労働させた時間が100時間未満であること
  • 対象期間の初日から1か月ごとに区分した各期間に当該各期間の直前の1か月、2か月、3か月、4か月及び5か月の期間を機和得たそれぞれの期間における労働時間を延長して労働させ、および休日において労働させた時間の1か月あたりの平均時間が80時間を超えないこと

上限規制の適用除外

 時間外、休日労働の時間の制限が36協定及び特別条項付き36協定にありました。原則としてはすべての職種で守られるべきものですが、新たな技術、商品または役務の研究開発に係る業務については適用しません。
 また、以下の職種についても令和6年3月31日まで上記時間の制限を適用しないこととなっています。

  • 工作物の建設の事業
  • 自動車の運転の業務
  • 医業に従事する医師
  • 鹿児島及び沖縄における砂糖を製造する事業

今回はここまでとします。ご覧いただきありがとうございました。