こんにちは。行政書士/社会保険労務士の石濵です。今回は経営者がすべきハラスメント対策の第2弾としてセクシャルハラスメント(以下、セクハラと記載)について解説致します。セクハラもパワーハラスメント(以下、パワハラと記載)と同様に事業所内で発生してしまうと、労働者から見ても経営者から見ても非常に大きな不利益となってしまいます。
 また、こちらもパワハラと同様に、近年根拠法が改正されますます取り締まりの厳しい社会になりつつあるのに労働者、経営者いずれもセクハラに対する知識が乏しいのが現状です。
 セクハラについて最低限知らなければいけない事、またセクハラ対策として事業所で取り組むべき事柄を解説します。

セクハラ防止法

 パワハラと同様、セクハラについてもまずは定義づけが肝心となります。一般社会でセクハラというと、時や場所、状況によらず刑法に触れない程度の広い範囲の性的嫌がらせというイメージがあります。例えば刑法で定められている強姦(刑法177条)や強制わいせつ(刑法176)にあたらない程度の性的被害に関しては、すべて“セクハラ“として、その中で“重大なセクハラ”“軽度のセクハラ”のように程度によって分けて読んでいるイメージが一般的であると思われます。
 ですが、今回のブログではセクハラの定義を、あくまでも職場内での言動に限って解説致します。これは現在、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以後、男女雇用機会均等法と表記)以外にセクハラを定義している法律がなく、職場外では先ほど述べた“強姦“や“強制わいせつ”以外の一般的にセクハラと認識されている犯罪はほとんど“軽犯罪法“や各都道府県の“迷惑防止条例”によって処理おり、それらの法条文内にはセクハラという文言はなく、“軽犯罪法違反““迷惑防止条例違反”となるからです(すみません。認識違いがあればコメントにメッセージお願い致します)。

セクハラ防止法って

 そうれではセクハラ防止法の中身に移りたいと思います。

 先ほども書きましたが現在通称“セクハラ防止法”と呼ばれているのは正式には男女雇用機会均等法※という法律で、雇用の分野での男女の均等な機会を設けること女性労働者の妊娠中や出産後の就業に関して当該労働者の健康の確保を図ることを目的としています。

 この法律は1985年に制定され、主に募集、採用、昇進などの雇用に関する内容の男女差別を禁止(法律制定時は努力義務的な要素が強かったのが、現在では強制的な要素が強い)する内容が中心になっています。そこに平成9年の改正で“職場における男性から女性への性的な言動に起因する問題に関する雇用上の措置等についての配慮義務”が、平成18年には“男女間での性的な言動に起因する問題に関する雇用上の措置等についての設置義務”についてという内容が加わりました。ここでは主に職場で性的な言動に起因する問題が発生した場合に事業主がしなければならないことが規定され、同時に“職場による性的な言動に起因する問題”=“セクハラ“として定義されることとなりました。

 なお、余談ですが、就業中の男女差別に関する法律は他にもあり、すべてこの法律によって規制されているわけではありません。例えば労働基準法では男女間の賃金格差や労働条件についての規定があり、また労働安全衛生法では女性の身体的特徴から就業させることが禁じられている業務に関する規定があります。

男女雇用機会均等法内でのセクハラの定義

 まずは男女雇用機会均等法のセクハラに関する条文をご確認ください。

男女雇用機会均等法 第11条
(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)

 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者から相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

  また、さらに詳しい言及が厚生労働省の示した指針(平成18年厚生労働省告示第615号、令和2年厚生労働省告示第6号)及び厚生労働省の都道府県労働局雇用環境・均等部の発行するリーフレットにありました。そこには“職場におけるセクハラ“とは①職場において行われる性的な言動であること➁当該労働者がその労働条件につき不利益を受けたこと③又は当該性的な言動により労働者の就業環境が害されることとあります。

 つまり、①は絶対要件で①に加え➁もしくは③(あるいは➁③いずれも)を満たすものが男女雇用機会均等法上のセクハラの定義と言えます。

性的な言動って

 男女雇用機会均等法内でのセクハラの定義を確認すると、少なくとも“職場内において行われる性的な言動がある“ことがセクハラと認定される為には必要不可欠だということがわかります。

 それでは、どのような言動が“性的な言動”であるかを見ていきましょう。性的な言動の一例が厚生労働省のHP内にありました。

性的な内容の発言の例
  • 性的な事実関係を尋ねること
  • 性的な内容の情報(噂)を流布すること
  • 静的な冗談やからかい
  • 食事やデートなどへの執拗な誘い
  • 個人的な性的体験談を話すこと
性的な行動の例
  • 静的な関係を強要すること
  • 必要なく身体へ接触すること
  • わいせつ図画を配布・掲示すること
  • 強制わいせつ行為

 これらはあくまでも一例で、どのような内容であっても基本的には被害者が「性的な言動を受けた」と感じたという主観が重要となります。ただし、必ずしも被害者の主観のみで判断できるものではなく、“平均的な男性の感じ方”“平均的な女性の感じ方”も基準となります。

職場におけるセクハラのタイプ

 職場におけるセクハラには、加害者の目的や被害者の不利益によって2種類のタイプに分けることができると言われています。

対価型セクハラ

 対価型セクハラとは、セクハラを受けた被害者の対応(拒否や抵抗)に対し、加害者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換等の不利益を被害者が受けることを指します。

 具体的な例としては

  • 事務所内において事業主である加害者が被害者に対して性的な関係を要求したが拒否されたため、被害者を解雇したというケース
  • 出張中の車中において上司である加害者が被害者に接触したが抵抗されたため、被害者に対し不利な配置転換をしたというケース
  • 営業所内において加害者である事業主が日ごろから被害者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、その労働者を降格させたというケース

 などが挙げられます。

環境型セクハラ

 環境型セクハラとは、意に反する性的な言動を受けたことにより、被害者の就業環境が不快なものになり、被害者の能力発揮に重大な悪影響が生じるなど被害者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。

 具体的な例としては

  • 事業所において上司である加害者が被害者に接触し、被害者がその接触を苦痛に感じて就業意欲が低下しているというケース
  • 同僚である加害者が取引先において被害者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、被害者が苦痛に感じて仕事が手につかないというケース
  • 被害者が抗議しているにも関わらず、同僚である被害者が業務に使用するPCでアダルトサイドを閲覧しているため、それを見た労働者が苦痛に感じて業務に専念できないというケース

 などが挙げられます。

新しいタイプのセクハラ

 厚生労働省の紹介するセクハラの対応は主に上記2種類ですが、最近では新しいタイプのセクハラとして、制裁型セクハラ(女性はこうあるべきとの考えの押し付けにより被害者が苦痛を受ける)や妄想型セクハラ(思い込みによって一方的に被害者に対し恋愛状態になったと考えたのちに性的言動をし、被害者が苦痛を受ける)など、さらに細分化してセクハラのタイプを分ける動きもあります。

 ですが、難しく考えるのではなく、あくまでも男女雇用機会均等法の条文内に記載のある、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることを満たしているかどうかでセクハラにあたるか否かを考える必要があります。

セクハラ対策としてしなければならないこと

 セクハラに関してもパワハラと同様に法律および指針で事業主等に対し対策としてしなければならないことが定められています。
 男女雇用期間均等法第11条を再度ご確認ください。

男女雇用機会均等法 第11条
(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)

 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者から相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

  上記条文の後半部分にご注目ください。事業主がしなければならない内容が記載されています。
 とはいっても、具体的に何をすればよいのかこの条文からは読み取れません。具体的な取り組み内容はパワハラ防止法である労働施策総合推進法と同様に厚生労働省の発する指針(平成18年厚生労働省公示第615号、令和2年厚生労働省公示第6号)に詳しく書かれて言います。以下、内容の抜粋要約です。

①事業主の方針等の明確化及びその周知、啓発

 事業主は 自社のセクハラ防止、抑止に関する方針を定め、その方針を周囲に周知、啓発しなければなりません。具体的には

  1. 職場におけるセクハラの内容及びセクハラを行ってはいけない旨の方針の明確化
  2. 職場でセクハラと認められる者を厳正に処分する旨を方針とした内容を就業規則等に規定し、その内容を周知啓発すること

 となっています。

 この規定はパワハラ防止法と同じですね。まずはセクハラに関して事業主や上層部が共通認識を持ったうえで、その共通認識を周囲に落とし込まなければなりません。
 なお、パワハラ防止法と同じく方針を定めた際、定めた事実だけでは不十分であり、当該方針を就業規則又は服務規程書(1の場合は社報、HPでも可)などに規定する必要があります。

➁相談又は苦情に対し柔軟に対応するための措置の実施

 パワハラ防止法と同じく、セクハラに関する相談や苦情の窓口を定めなければならないという規定になります。ただ窓口を設置するだけでは不十分で、以下の内容を満たさなければなりません。

  1. 相談及び苦情の対応のための窓口を定め、労働者に周知すること
  2. 1の相談窓口の担当者が相談に対し適切に対応できるようにすること

 窓口を定める際には自社で運営する窓口でも外注でも構いません。有資格者等の設置義務もないので自社で運営することも十分可能であると考えられます。

 ただし、2の後半部分の規定を満たすために、窓口担当者への十分な教育は必要不可欠となります。元資料となる指針によると“窓口相談において、被害を受けた労働者が委縮するなどして相談を躊躇する例もあることを踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら職場におけるセクシャルハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生の恐れがある場合や職場におけるセクシャルハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること”と規定されています。

 マニュアル作成はもちろん必要ですし、相談があった際に「それはセクハラに該当しません。おわり。」というような杜撰な対応は許されません。

③職場におけるセクシャルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

 ここではセクハラが発生してしまった場合に事業主がどのように対応すべきかが記載されています。相談窓口での第一次対応の後、窓口の最終的な責任者である事業主の指示のもと、適切な対応をとる必要があります。

 具体的には以下のような対応となります。

  1. 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること
  2. 事実関係を確認し、セクハラであると確認できた場合には速やかに被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
  3. 職場におけるセクハラが確認できた場合には行為者に対する措置を適正に行うこと
  4. 事案がセクハラとして確認できた、できていないにかかわらず自社のセクハラに関する方針を再周知、啓発等の再発防止に向けた措置を講ずること

 1は、実際に相談を受けた窓口担当者や人事部門の担当者などが被害者、行為者いずれからも事情を確認し、場合によってはそれ以外の第3者にも話を聞いた上で事業主の責任下において事実関係を判断することとなります。

 ただし、判断が非常に難しいケースも容易に想像できるため、判断がつかない場合はセクハラに詳しい社労士や弁護士の意見も参考にすべきです。また、男女雇用機会均等法第18条、18条の2で都道府県労働局長の判断もしくは労働者からの申請で紛争解決のための調停を行うことができる規定を設けているため、調停による第3者判断を仰ぐという手もあります。

 2は、被害者のメンタル面のケアももちろん大切になりますが、その後の業務環境の改善にも力を入れなければなりません。事案後、被害者が希望するのであればできる限り就業場所や指示体系を行為者と分離するなどの対策が効果的です。また、同じ部署や隣接部署で業務せざるを得ない場合には環境を整備した後に行為者に謝罪を促したり、両者わだかまりなくその後の業務ができるように関係改善の場を設ける等が考えられます。
 いずれにしても被害者が働きやすい環境をつくることが大切です。

 3は、行為者が例えば重役だったり、担当部署のエース格であったとしても就業規則又は服務規程等にあらかじめ定められたセクハラに対する措置の規定通りの対応を実行することが求められています。行為者のポストや業務遂行能力等によってセクハラに対する規定の適用が変わるようなことはあってはなりません。

 4は、再度の従業員教育を求めた内容です。再教育は当該事案がセクハラに該当するかどうかにかかわず実施されなければなりません。仮にセクハラとは言えない内容であったとしても、少なくとも行為者と被害者の間で何らかの相容れない事柄があったことは明確なので、同様の事案が再発しないようにしなければなりません。

④その他①➁③と併せて講ずるべき措置

 ①➁③に加え、事業主は以下を実施しなければなりません。

  1. 事案の行為者、被害者のプライバシー保護に関する必要な措置及び当該措置を実施することの労働者への周知
  2. 労働者が相談窓口に相談したことや、当該事案解決の為に事実を述べたこと(例えば盗撮の事実を認めた等)又は労働局等の行う措置(助言、援助、調停等)を利用したことを直接の理由として、解雇その他労働者に不利益を行わない旨の定め及びその定めの労働者への周知

 1は、具体的には「どうやったら行為者、被害者のプライバシーを守れるか」ということを事前にマニュアル化し、相談窓口へ周知しておくことや、社内外に当該プライバシーを守る措置をしていることを周知することが必要となります。


 今回は以上となります。ご覧いただきありがとうございました。