こんにちは。行政書士の石濵です。今回は相続に関する民法の解説として、前回までの続きということで第985条から進めていきたいと思います。前回までは主に遺言の方式に関しての条文が主でしたが、ここからは遺言の効力に関する条文がメインとなります。

第985条(遺言の効力の発生時期)
① 遺言は遺言者の死亡の時からその効力を発揮する
② 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。

 遺言は、遺言者が死亡した時に初めて効力が発生します。通常、遺言状は遺言者が死亡してからでないと開封されない事からも理解は難しくないでしょう。
 ②では遺言に停止条件が付されている場合について書かれています。停止条件とは例えば”試験に合格したら○○を渡す””社長に就任したら○○を渡す”等相手が権利を得ることに対し条件を付けることです。
 つまり、①では遺言の効力発生を遺言者の死亡の時としながら、②で①を修正し、権利を得るための条件が書かれている場合は条件をクリアしてからじゃないと効力が発生しないよ、ということを言っています。

第986条(遺贈の放棄)
① 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄をすることができる。
② 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

 一般的に遺贈は”特定遺贈”と”包括遺贈”に分類することができます。特定遺贈は文字の通り、遺贈物が完全に特定できるようなもので、例えば”○○社の株式△株分”とか”○○にあるマンション”のようなものです。
 包括遺贈とは”全財産の○○分の1″”○○の権利関係すべて”のようなものです。
 特定遺贈は物品が指定されていますので、非常にわかりやすいというか、遺贈を受けるのか受けないのかも直ぐに判断することができます。
 ですが、包括遺贈の場合は、例えば財産がどれだけあるかチェックをしなくてはならなかったり、場合によってはプラスの財産よりも借金のが多かったりした場合に、”包括して”受け入れなければならない為、判断に困ってしまう場合があります。
 遺贈は第985条にあるように”遺言者の死亡の時から”効力を発揮します。つまり、特段の意思表示がない場合は”すでに遺言通りに権利関係が発生した”となってしまいます。
 そのような想定の下で、本条文では、遺贈はいつでも放棄でき、放棄した場合ははじめから遺贈を受けていなかったように処理できることが記載されています。

第987条(受贈者に対する遺贈の承認又は放棄の催告)
遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。以下、この節において同じ。)その他の利害関係人は、受遺者に対し相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。この場合において、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす

 第986条でも解説しましたが、包括遺贈を受ける場合、受贈者は本当に遺贈を受けてよいのか調査を行う必要があります。ですが、あまりにも長い間「調査」という名目で贈与財産(負の財産含む)の厭離関係が宙ぶらりんになってしまっては困ってしまう利害関係者がいることは容易に想像がつきます。
 例えば、故人の”全財産”の遺贈を受けた場合、故人に金を貸していた債権者は取り立てがどうなるのかが、ずっと確定しないまま過ぎてしまうというような場合です。
 そのような利害関係者の権利保全の為に、この条文では”催告権”を認めています。具体的には利害関係者が相当な期間を定め「遺贈を受けるのかどうか返答してほしい」と受遺者に問い合わせるという権利です。
 なお、受遺者が相当な期間内に返答しなかった場合は、受贈者が遺言通り受像したとみなすことになっています。

第988条(受遺者の相続人による遺贈の承認又は放棄)
受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認又は放棄をすることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思表示をしたときは、その意思に従う。

 遺言は、遺言者が亡くなって初めて効果が発揮される為、遺言者が亡くなったときには受贈者も危ういです・・なんてこともあるかもしれません。
 そのような時に、受贈者が判断をせずに亡くなってしまった場合、受贈者の相続人に判断を委ねられることになります。
 また、受贈者の相続人が一人であれば問題ありませんが、複数ある場合は相続割合に応じて複数人が当該権利関係を取得することも考えられます。そのようなときには自らの相続割合分でしか意思表示をすることはできません。

第989条(遺贈の承認及び放棄の撤回及び取消し)
① 遺贈の承認及び放棄は、撤回することができない。
② 第919条第2項及び第3項の規定は、遺贈の承認及び放棄について準用する。

 遺贈の承認及び放棄はの撤回は、利害関係者の権利の安定を損なうため、することはできません。しかし、取り消しは可能です。
 ②で民法第919条2項3項を準用すると記載されています。民法第919条は相続の承認及び放棄に関して記載されている条文で、2項では”(民法の)第1編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取り消しをすることを妨げない”第3項では”追認をすることができる時から6か月間行使しないときは時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から1年を経過したときも、同様とする”という内容となっています。
 つまり、取り消し事由(詐欺や脅迫によってされた意思表示や自分で意思決定をすることができない人の意思決定)があっても、追認(認める、取り消す)ことができる時から6か月以上経過するか、遺贈の承認及び取り消しから10年以上経過した場合は取り消せないが、そうでない場合は取り消すことができるということです。

今回はここまでにします。次回もよろしくお願い致します。