こんにちは。行政書士の石濵です。今回も前回に引き続き相続に関する民法条文の解説をします。内容も引き続き遺言の執行に関する内容がメインとなります。

第1016条(遺言執行者の復任権)
① 遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を負わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
② 前項本文の場合において、第三者に任務を負わせることについてやむを得ない理由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

 遺言執行者が任務の一部又は全部を他人に行わせることができる旨が記載されています。遺言執行者に就職した方の中で少なくない割合で行政書士等士業の先生に大部分を委任することがあるでしょうから。
 ②ではやむをえない場合の際の責任の所在に関して記載されています。やむを得ない場合とは、急病等物理的に任務を果たすことが溺愛場合の事で、「仕事で忙しいから」みたいなものは、やむを得ない場合に該当しないケースがほとんどです。
 やむを得ない場合には人選や監督をしっかりしていたと証明できれば有事の際に免責されることとなっています。

第1017条(遺言執行者が数人在る場合の任務の執行)
① 遺言執行者が数人在る場合には、その任務の執行は、過半数で決する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
② 各遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。

 遺言執行者が複数存在する場合の任務の執行に関して記載されています。気を付けたいのは仮に遺言執行者が2名だった場合は【2名の過半数=2名】であることから意思の合致が無ければ話がなかなか進まないところにあります。
 もっともその場合は①但し書きで「意見が合わない場合は○○の意見に従う」のような但し書きを付することにより解決するのではないでしょうか。
 ②では保存行為(物の修理や家賃等の支払い等)ならば単独で可能であることが記載されています。

第1018条(遺言執行者の報酬)
① 家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。
② 第648条第2項及び第3項並びに第648条の2の規定は、遺言執行者が報酬を受ける場合について準用する。

 ①では家庭裁判所は相続財産の内容や相続人の資産状況、遺言執行者の立場等を勘案して遺言執行者の報酬を定めることができます。一般的には相続財産の1%~3%と言われていますが(当然交通費等の諸経費は除かれます)、ケースバイケースです。また但し書きであらかじめ遺言者が報酬を定めていた場合の記載があります。
 ②は受任者の報酬に関する規程を準用することが記載されています。具体的には、遺言執行者の報酬は後払いになる旨、委任者の責めに帰す理由での途中終了や委任の解除は進捗割合に応じて報酬を支払う旨、成果物がある場合は報酬と引き換えとする旨の規定ですが、いずれも例外について当該条文に記載があります。

第1019条(遺言執行者の解任及び辞任)
① 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な理由がある時は、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
② 遺言執行者は、正当な理由がある時は、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。

 通常の委任関係は当事者同士の話し合いで何時でも解除することが可能です。ですが、遺言執行者は相続人の立場よりも遺言執行を優先しなければいけない等の事情から相続人と遺言執行者の話し合いで簡単に関係を終了させることができません。①及び②のように家庭裁判所の介入が必要となってきます。

第1020条(委任の規定の準用)
第654条及び第655条の規定は、遺言執行者の任務が終了した場合について準用する。

 委任終了後の事後処理に関しての条文を準用する旨が記載されています。第654条では委任が終了した場合(任務のほか、相続人の死亡、破産手続き開始の決定を受けた場合等)には委任者の承継人等が引継ぎを行うまで必要な処分をしなければならない旨が、第655条では単純に任務が終了した事実をもって終了するのではなく、きちんと任務の終了を相手方に通知しなければいけない旨が記載されています。

第1021条(遺言の執行に関する費用の負担)
遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることはできない。

 遺言執行に必要となる費用はどこから捻出するかの規定です。遺言執行者への報酬や交通費等の諸経費その他必要な経費は相続財産より捻出するという内容が記載されています。
 但し、遺留分を請求する権利を保有している方から遺留分減殺請求(相続人なのに生前贈与等で自分に財産が相続されない場合、最低限の分だけはくださいという請求)をされた場合に「経費で〇〇掛かったから遺留分全額は出せないよ」という対応はできませんという内容が後半に記載されています。

 今回はここまでとします。次回もどうぞよろしくお願い致します。