こんにちは。行政書士/社会保険労務士の石濵です。今回は労働基準法についての基礎知識として、労働基準法が適用される人と適用されない人の違いについてみていきたいと思います。

学生時に触れる労働基準法

 労働基準法に関して、多くの人は中学生や高校生の時に政治経済などの授業、講義で触れた経験があり、まったく内容を知らない方は少ないように思います。私も中学高校時代に「労働基準法は労働者を守るための法律なんだ」「労働三法という労働に関する法律があるんだ」「労働三法とは労働基準法と労働組合法と労働関係調整法なんだ」という内容を勉強したような気がします。労働三法なんかは暗記するためにノートに何度も何度も書きました。当時は労働基準法の中身なんかよりも労働三法や労働三権はどんな法律、どんな権利かということを暗記する方がよほど重要でしたが、多くの場合は絶対に内容の方が大切です。そしてその内容をある程度でも把握できている社会人は非常に少ないです。

労働基準法が適用される労働者

 ここでは労働基準法上の労働者について解説します。労働組合法上の労働者は労働基準法のそれと比べ労働者の解釈の範囲が広くなっているといわれています。ここでは、

  • 労働者の定義は一律ではないこと
  • 働いてる人すべてが労働基準法上の労働者ではないこと

 この2点を念頭においてください。

労働基準法上の労働者の定義

 以下、労働基準法第9条の抜粋となります。

労働基準法第9条(定義)

この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

 簡単に言うと、事業または事務所に使用されている→使用者の指揮命令を受け労働を提供し、その労働の対価として賃金が支払われる関係であることが必要となります。
 例えば個人経営の事業主は労働基準法上は労働者ではありませんし、業務委託を受けた職人さんも委託元との関係では労働者ではありません。また、法人の代表も労働者ではありません。
 ただし、法人の重役で代表権を持たずに賃金を受ける部長等は当該法人の労働者と判断されますし、雇用契約のある職人さんも雇用契約をしている法人との関係性では労働者となります。

 労働基準法上の“労働者かどうか”は非常に大きな意味を持ち、労働者と判断されれば労働基準法の庇護の下にいるといえますが、労働者と判断されなければ労働基準法は守ってくれません。

どのような職種に労働基準法が適用されるのか

 労働基準法は、労働者を使用する事業であれば、その種類や規模に関係なく適用されます。「零細企業だから適用されない」「個人事業主に雇われているから適用されない」といったことはありません。
 ただし、日本国内にある事業にのみ適用されます。例えばA社という日本の企業に海外支店がある場合は、A社の国内事業所は労働基準法が適用されますが、A社の海外支店には労働基準法は適用されません。同じように海外に本社を構えるB社に日本支店がある場合はその日本支店には労働基準法が適用されます。

労働基準法が適用されない場合

 労働基準法は原則として労働者を使用する事業であれば種類や規模に関係なく適用されますが、例外も存在します。労働基準法がまるっと適用されない者から労働基準法の一部だけ適用されない(あるいは一部だけ適用される)者まで様々です。以下、順次解説します。

1.同居の親族のみを使用する事業

 同居の親族のみを使用する事業については労働基準法は適用されません(労働基準法116条2)。ここで言う「親族」とは6親等以内の血族及び配偶者、3親等以内の姻族のことです。文字だけでは理解しにくいので下記の図をご覧ください。

 こちらは根拠となる労働基準法の条文となります。

労働基準法116条(適用除外)

➁この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。

 また、同居の親族であっても例外の例外として以下の要件に該当する場合は労働基準法が適用されます。

  1. 常時同居の親族以外の労働者を使用する事業において、一般事務又は現場作業に従事している
  2. 業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確である
  3. 終了の実態が当該事業におけるほかの労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われている

2.家事使用人

 家事使用人については労働基準法が適用されません。こちらも先ほどと同じく労働基準法第116条委2が根拠となります。ここで言う家事使用人とは個人や法人に雇われ、当該個人や法人の指揮命令下の元家事業務に従事している労働者のことを指します。
 逆に、家事代行サービス会社のような所に雇用され、そこから一般家庭等に派遣される場合は労働基準法の適用を受けます。
 少しわかりにくいかもしれませんが、後者の場合は実際に家事をする家庭から指揮命令を受けるのではなくあくまでも家事をする家庭に派遣した会社が指揮命令者となることに違いがあります。

3.公務員

 労働基準法上は公務員にも労働基準法を適用することとなっている(労働基準法第112条)。ただし、特別法である国家公務員法附則第16条で国家公務員一般職に労働基準法等の法律を適用しない旨が、また地方公務員法第58条3項で労働基準法の一部を適用除外する旨が記載されています。表にするとこのような形です。

労働基準法第112条(国及び公共団体についての適用)

この法律及びこの法律に基いて発する命令は、国、都道府県、市町村その他これに準ずべきものについても適用あるものとする。

国家公務員法法附則第16条

労働組合法(昭和二十四年法律第百七十四号)、労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)、船員法(昭和二十二年法律第百号)、最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)、じん肺法(昭和三十五年法律第三十号)、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)及び船員災害防止活動の促進に関する法律(昭和四十二年法律第六十一号)並びにこれらの法律に基いて発せられる命令は、第二条の一般職に属する職員には、これを適用しない。

地方公務員法第58条(他の法律の適用除外等)

労働基準法第二条、第十四条第二項及び第三項~(中略)~の規定並びにこれらの規定に基づく命令の規定は、職員に関して適用しない。ただし、労働基準法第百二条の規定~(中略)~までの規定は、地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十一号)第二条第一項に規定する者以外の職員に関しては適用する。

 なお、行政執行法人とは独立行政法人の一種で造幣局などが当たります。独立行政法人でありながら国の行政に密接にかかわる事務を取り扱うため、行政執行法人の職員の身分は国家公務員となります。

4.船員法に規定する船員

 船員法に規定する船員(日本の船舶又は国土交通省の定めた船舶に乗り込む船長や船員など)には労働基準法の総則(全体的に適用する一般的、包括的な規定)及び一部の罰則のみが適用され、雇用契約や報酬、休憩休日などの規定は船員法に規定されています。

今回はここまでです。ご覧いただきありがとうございます。