こんにちは。行政書士の石濵です。今回も相続に関する民法の解説をします。内容としては、遺言の執行に関する内容の続くとなります。では、よろしくお願い致します。

第1011条(相続財産の目録の作成)
① 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
② 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。

 相続財産目録についての条文です。相続財産目録はその名の通り相続財産についての詳細が記されている目録で、相続を行う際に必ず必要となるわけではありませんが、遺言執行者に就任したのであれば、必ず作成しなければなりません。
 遺言執行者の任務は相続人の保護ではなく、遺言者の遺した遺言の実行ですので、遺言に記載されている範囲の財産目録で構いません(包括遺贈の場合は債務含むすべての財産の目録が必要となります)。
 ですが、いくら遺言執行者の任務は遺言の実行とは言っても相続人には相続を受ける権利があり、その権利を担保するために相続に関する情報が必要となるため、財産目録という形で相続人に情報開示を行うべくこのような取り決めがあります。

第1012条(遺言執行者の権利義務)
① 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
② 遺言執行者がある場合には、遺言の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
③ 第644条、第645条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。

 1011条では相続人に対する情報開示について記載されていましたが、遺言実行自体は遺言執行者が独断で行うことが可能です。①では、遺言執行者に一切の権利義務があること、②では遺言執行者以外の者(遺言執行者でない相続人等)が遺言執行を行えない事が記載されています。
 また、③では、いくつかの事柄に関して、民法の受任者に関する規程を遺言執行者にも当てはめることが記載されています。条文中に在る第644条は受任者は善管注意義務(ちゃんと注意してことを進める義務)を負うこと、645条は委任者(この場合は相続人)から報告の請求があればちゃんと報告すること、646条は遺言執行の任務の途中で、遺言執行の仕事について金品を得た場合は相続人に変換すること(例えば当該財産の中にリンゴの木があり、リンゴの木を管理している時に果実を回収した場合は相続人に変換しなければいけません)、647条は任務に関して金品を得た場合、それを着服した場合はきちんと利息を付けて返済(及び損害があれば損害賠償)しなければ行けないこと、そして650条では任務につき遺言執行者が立て替え払いをした際には委任者(相続人)に請求ができることや、自分に過失がない場合の損害を委任者に請求できることが記載されています。

第1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)
① 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
② 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することはできない。
③ 前2項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

 ①は遺言執行者の管理処分権と相続人の権利のどちらが優先されるかについて記載されています。どちらが優先されるかというと、この条文の通り遺言執行者の管理処分権が優先されます。
 なお、②③は新設規定です。②では勝手に相続人が遺言執行者の管理する相続財産を処分等しても無効になるということが記載されています。但し、善意の第三者(過失なくその財産の状況を知らなかった人)を保護する為に、そのような状況下で取引がなされた場合は相続人及び遺言執行者はこの規定を用いて取引を覆すことはできません。
 ③は相続人の債権者が自らの権利を行使した場合、その権利を止めることができない旨が記載されています。

第1014条(特定財産に関する遺言の執行)
① 前3条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
② 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備える為に必要な行為をすることができる。
③ 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金または貯金の払戻しの請求及びその預金または貯金に係る契約の解除の申し入れをすることができる。ただし、解約の申し入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
④ 前2項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

 第1011条の解説の際に少し触れましたが、包括財産でなく、特定財産を遺言にて遺贈する場合遺言執行者の管理権に属するのは当該特定財産のみとなります。この条文はそのことに関して少し詳しく触れています。
 まず、①では遺言執行人の管理に属する財産が特定財産だった場合、特定財産以外のその他の財産は第1011条、第1012条、第1013条の影響を受けない事が改めて記載されています。
 ②③④は新設規定となります。まず②ですが、遺産の分割方法の指定として(つまり、遺贈ではなく相続の分け方として)の遺言があった場合は、その遺言に従い、遺言執行者が登記、登録等の第三者に対抗できる要件を備えるために必要なことができる旨が記載されています。
 民法899条第1項の2の中で、遺言で相続の分割について書かれていても、そのことを知らない人に「これは○○が相続するよ。だって遺言に書いてあるから」と主張できず、それでもなお主張する為には登記や登録が必要だと書かれています。この主張をする為の登記、登録に必要な事柄を遺言執行者が行えるという内容となっています。
 ③では、②で書かれていた「遺産の分割方法の指定をされていた」財産が預貯金債権(預けてあるお金をおろしたりする権利)である場合は払い戻しや解約の申し入れを行うことができる旨が記載されています(②にある、登記登録の変更ももちろんできます)。
 但し、解約の申し入れは、その口座すべてが遺言の目的として特定された財産でなければいけません。
 最後に④ですが、遺言者が遺言で別の指示をしている場合について記載されています。

第1015条(遺言執行者の行為の効果)
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。

 以前は「遺言執行者は相続人の代理人」とされていましたが、変更後は「遺言執行者は遺言に従う限り、相続人の不利益になったとしても相続人に効力を生ずる」という内容になりました。

今回は以上となります。また次回もよろしくお願い致します。