こんにちは。行政書士の石濵です。本日も相続に関する民法の解説の続きを行います。ここでは遺産の分割協議についてや共同相続人の責任の所在について書かれています。では個別に見ていきましょう。

民法第906条(遺産分割の基準)
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
民法第906条の2(遺産の分割前に遺産に関する財産が処分された場合の遺産の範囲)
①遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
②前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

 複数の相続人がいる場合、民法第902条で遺言書がある場合の相続は基本的に遺言書に従い、また第900条、第901条で遺言書がない場合は法定相続分に従い分配するとありましたが、この第906条前半部分を読むと、相反すると感じるかもしれません。昭和42年の判例では「法定相続分を無視した分割はできない」という判決が出されまして、争いがあればやはり法定相続分が目安になる事になるでしょう(当然第904条の2にある寄与分は考慮されることになりますが)。この条文の前半部分の意図は、相続するにおいて(法定相続分を基準として)現金の必要な方にはできる限り現金を、土地建物が必要な人には土地建物を、被相続人が会社経営をしていた場合、相続人に会社の跡取りがいれば会社の株式なんかを分けましょうという相続の指針を明示していると考えられています。「自分は心身状態が不安定だから法定相続分よりも多く相続できる。」というような内容ではありませんのでご注意ください。
 後半部分ですが、これは令和元年の7月より施行された法律です。それまででも遺産分割前に共同相続人によって遺産を処分されていた場合は不当利得返還請求や不法行為による損害賠償等の方法によって取り返す方法もありましたが、非常に面倒であり、結局相続の時に残っている財産を分割するケースが多かったと聞きます。ですが、第906条の2ができた為に訴訟等の手間をかけずに勝手に処分された遺産が存在するものとして分割することができるようになりました。
 また、②部分で、悪いことをした相続人の同意が必要ないことが明示されています。

第907条(遺産分割の協議又は審判等)
①共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
②遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。但し、遺産の一部を分割することにより他の共同同族人の利益を害する恐れのある場合におけるその一部の分割については、この限りではない。

③前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

 遺産分割協議についての条文です。①では、例外を除き基本的に遺産分割協議はいつでもできる(特段の期限は無い)事が明示されています。ここに直接記載はありませんが、一部の相続人のみでの協議は無効となります。
 ②は分割協議に何らかの支障がある場合に家庭裁判所に分割の請求ができるようになりました。②後半部分は新しく付け足された部分になります。今までにも実務上は家庭裁判所が一部分割を認める又は禁ずることがあり、それを明文化した内容となっています。
 ③では、分割協議において家庭裁判所が介入し分割を禁じた場合は期限を付す旨が記載されています。

第908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
被相続人は、遺言で、遺産の分割方法を定め、若しくはこれを定める事を第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

 第907条の冒頭部分にあった、「次条の規定」です。ここでは遺言で遺産の分割方法を定める事、第三者への定め方の委託、遺産の分割の時期の指定(分割禁止期間の設定)について定めています。この項で定められているのは、あくまで分割方法であり、分割割合ではありません。
 なお、分割禁止の理由があまりにも不相応なものであった場合や相続人全員の同意がある場合であれば、必ずしも遺言通り分割ができないわけではありません。

第909条(遺産の分割の効力)
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
第909条の2(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算出した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

 前半部分は、「遺産の分割が決まった時は、相続が始まった時から分割方法がきまっていたとして扱う」という事が記載されています。つまり、分割の結果、自分がA土地を相続することが決定した場合は遡って相続開始日(相続があることを知った日)からA土地を所有していたと扱われるという意味です。また、但し書きの第三者は相続開始前から当該相続財産に対し何らかの権利を有する人のことで、相続開始後に権利を有した者はここで言う第三者に含まれません。
 次の第909条2は2019年7月に施行された新しい条文となります。金融機関の口座は、基本的には当該金融機関が口座名義人の死亡を知った時に、後のトラブルを回避する目的で凍結され、その口座から預金を引き出すには共同相続人全員の同意と各種書類を用意する必要がありました(遺言の有無等により異なります)。ですが、この条文が追加されたことにより、法定相続人は単独で一定額まで預金の引き出しができるようになりました。なお引き出せる金額の計算は
(被相続人の口座にある預金額の1/3)×(自らの法定相続割合)と150万のいずれかすくない方】となります。また、用途も条文にあるように生活費や葬儀費用等に限られますので注意してください。

第910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払い請求権)
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人がすでにその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払いの請求権を有する。

 ここでは、相続開始後に相続人となった者が遺産の分割請求をする場合の事が記載されています。「相続開始後に相続人となる」というケースは想像しにくいかもしれませんが、相続人が亡くなった後に認知請求をして認められる等のケースが考えられます。似たケースで、分割後に実は被相続人に嫡出子等の共同相続人がいたことが判明したケースでは、本条は適用されません(その共同相続人には相続開始前から相続権があったのですから)。

第911条(共同相続人間の担保責任)
各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保責任を負う。

 ここでは、相続財産に瑕疵(契約不適合)があった時は誰が責任を取るのかという問題です。物の売買を行う際に売主に何らかの契約不適合(他人物売買等)があり、買主がそれを知らなかった(知ることができなかった)場合は買主は損害賠償や契約の無効、代金減額等の請求ができます。それを相続にも当てはめようという内容です。また、条文では「相続分に応じて」担保責任を負うとあります。例えば、相続人が2人いて、片方がA土地を、もう片方がB土地を相続した場合にA土地に何らかの瑕疵があった場合、A土地の相続人が単独で責任を負うのではなく、相続人2人で相続割合に応じて責任を取りましょうということです。

第912条(遺産の分割によって受けた債権についての担保責任)
①各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。
②弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。

 第912条は、債権を相続した場合の事が記載されています。債権とは、ある特定の人に対し、一定の行為を請求できる行為のことで、「家賃を振り込んでもらう権利」や「借金を返してもらう権利」のことです。このような権利も現金や不動産と同様に相続の対象ですが、現金や不動産と大きく違う点として、「手に入れる保証のないもの」であると言えます。「100万円の借金を回収する権利」を持っていても満額回収できない可能性があります。下手をすると一切回収できないケースもあります。本条文①では、共同相続人の一部の人が債権を相続し回収できなかった場合は、他の共同相続人が分割割合に応じて責任を取りましょうという事が書かれています。
 ②も内容は同じです。今後実現される予定の債権(弁済期の至らない債権)や不動産が売れたら借金を返す(停止条件付債権)に関しても①と同様に共同相続人みんなで責任を負いましょうという内容です。

第913条(資力の無い共同相続人がある場合の担保責任の分担)
担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力がない者があるときは、その償還することのできない部分は、求償者及び他の資力のある者がそれぞれその相続分に応じて分担する。ただし、求償者に過失がある場合は他の共同相続人に対して分担を請求することができない。

 第911条や第912条で、債権を回収できなかった場合は相続人全員で責任を負うことになっていましたが、その相続人の一部が責任を負うことができない(お金がなく、責任分の支払いができない)場合について書かれています。お金のない京相続人の負担分は、求償者(債権回収できないから他の相続人に責任負担を請求した人)と、ちゃんとお金のある相続人で相続割合に応じて負担しようという事が書かれています。
 また、後半の但し書きでは、求償者に過失のある場合(自ら債権放棄した時や、放置して時効を迎えてしまった債権など)は他の相続人に請求できないことが記載されています。

第914条(遺言による担保責任の定め)
前3条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、適用しない。

 第911条~第913条の規定は、遺言によって取り除いたり、変更したりできるということが書かれています。「債権が回収できないときは、一番相続額の多い長男が責任を負う」みたいなことも遺言で意思を示せば可能となります。

今回はここまでにします。またよろしくお願い致します。