こんにちは。行政書士の石濵です。今回は賃貸物件を借りる際に、また生活していく中で設備に不具合がある場合は誰が修繕を行うべきかを解説します。
多くの人が賃貸住宅物件への入退去経験があると思います。ほとんどの場合、大家さん(入居する不動産の所有者又は権限をもつ管理者)と直接契約するのではなく、不動産仲介業者(ミニミニさんやニッショーさんのような大手から、地域に根づく小規模なところまで非常に多くの不動産仲介業者が存在します)を通じて賃貸借契約を締結することになり、その不動産仲介業者の従業員である宅建士という国家資格保持者より契約の内容の説明や対象となる不動産の説明を受けたのちに賃貸借契約を結ぶことになると思います。(実は私も宅建士の資格を持っています。業務では使用しませんが・・)
そして、契約の内容にもよりますが、多くの場合は月々支払う家賃の他に敷金や礼金を支払うことになります。簡単な語句の説明ですが、礼金とは契約の際にに支払うお礼の能なお金です。
詳しくはこちら ハマログ 不動産賃貸時の礼金について
そんな礼金とは違い、敷金は退去時の現状回復に要する費用をあらかじめ大家さんに預ける、いわば「預入金」に近い性質のものであり、基本的には退去時に原状回復費用を差し引かれて残りは手元に帰ってきます。
詳しくはこちら ハマログ 不動産賃貸時の敷金について
さて、礼金は返却されないお金なので退去時に問題となることはありませんが、敷金の返金に関してトラブルが発生してしまう事が頻繁に発生しています。
以前私が不動産仲介業者で勤務していた時にもお客さんと敷金から充当する原状復帰費用に関して主張の食い違いがままあり、あやうくトラブルになりかけるようなことも少なくありませんでした。なぜでしょうか。
原状回復ってどうすればいいの?
日本語には似たような意味合いで「原状回復」「現状回復」「現状復帰」等様々な言葉があり、それぞれニュアンスが違います。そして、それらの語句を定義分けして使用している方は非常に少ないのではないでしょうか。
もう少し言うと、自分の考えている「現状回復」と相手の考えている「原状回復」に多少の齟齬があるのは仕方のないことで、特に不動産業界を知らない場合は不動産屋の言うことが不動産屋さんの慣例なので言うことをそのまま聞くしかないと考えている人がかなり多いように感じられます。その結果、本来支払う必要のない退去費用を支払うことになるケースが後を絶ちません。
そもそも法的な「借りた不動産を退去時に現状回復しなければならない」ことの根拠は民法【賃借人の原状回復義務】にあります。条文乗っけときますね。
民法第621条【賃借人の原状回復義務】
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損傷並びに賃借物の経年劣化を除く。以下、この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了した時には、その損傷を原状に復する義務を負う。但し、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではない。
どうでしょうか。読んでみると「普通に住んでいたら原状に復する義務無いし、敷金払う必要ないじゃん」となりませんか?
でも、不動産屋さんに「いやー壁紙は普通10年持ちますよ。それを5年で汚したらそれは借主の責任でしょ。」と言われたらなんだかそのような気がしてしまいます。壁紙や建具の耐用年数なんて業界の人しかわかりませんしね。
そこで不動産業界を管轄する機関である国土交通省の前身である建設省が平成10年に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を発表しました(平成23年改訂)。とても具体的な内容として記載されているので、これを参考にすれば、不動産屋さんとのトラブルを未然に防ぐことができるかもしれません。一度確認してみてください。
国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン
具体的な費用負担者例
さて、このガイドラインから退去時にかかりそうないくつかの費用の負担者を抜き出してみます。もちろん契約自由の原則があり、契約時に負担者が決められていた場合は契約時の約束に従うことになりますが、特段の取り決めが無い場合は参考にしてみてください。
床関係費用の貸主負担例
・畳の裏返しや表替え
・畳の変色(日照や雨漏り等構造上の欠陥によるもの)
・フローリングのワックス
・通常の家具の設置によるフォローリングのへこみ
床関係費用の借主負担例
・机やいす等のキャスターによるフローリングへこみ
・カーペットのシミ、カビ(借主の不注意によるもの)
・冷蔵庫下の錆跡等の補修
・引っ越し作業時にできた傷
壁関係費用の貸主負担例
・クロスの電機焼け、変色、たばこのヤニ(適切に使用した場合)
・エアコン設置の為のビス等
・カレンダー、ポスター設置のビス等
壁関係費用の借主負担例
・壁への釘穴
・たばこのヤニ(適切に使用していないと認められる場合)
・水漏れ等による腐食(借主が水漏れを放置していた場合)
・台所の油汚れ
その他の費用の貸主負担例
・全体のハウスクリーニング
・自然災害によって破損したガラス等
・設備機器の経年劣化による破損
・次の入居者の為のカギ取り換え費用
・室内消毒費用
その他の費用の借主負担例
・ペットによる建具の傷、汚れ、匂い
・換気扇の油汚れ清掃(通常の手入れを怠っていた場合)
・その他通常の手入れをしなかったことによって発生した設備の破損等
今回は以上となります。
市場経済の流れとして、貸主も借主も、少しでも相手側に費用を払わせようとなるのは仕方のないことだとは思いますが、互いに指針を知り、そのうえで協議を行うことにより無用な争いを防ぐことができます。
この手のトラブルに直面している方は非常に多いと思いますので是非参考にしてください。