こんにちは。行政書士の石濵です。今回は中小企業の永遠の課題である、「承継」について書きたいと思います。
今回は法律の話とは少し離れて、私が以前に食品工場の経営をしていたことに「承継」につて感じたことや行政書士という立場からみて、その時の自分に対してできたことを振り返りますので、「お役立ち情報」とは言えないかもしれません。興味のない方は読み飛ばしてくださいね。
石濵の経営者時代
私は大学卒業後、地元名古屋の食品商社に勤めていましたが、家業である食品工場の2代目社長の父が末期がんということを知り、後を継ぐために食品商社を辞め、家業の工場を引き継ごうと経営者の門を叩きました。
ここまでは非常に聞こえの良い話ですが、今まで経営の「け」の字も知らず、また、新社会人として遊び惚けていた自分は、とても楽観的な考えを持っていました。正直、入社前は「土台がある、しかも小さな会社の経営なんか誰でもできる」「部下に実務を任せて自分は地域貢献なんかを頑張ろう」と本当に考えていたのです。
入社後、私は様々な壁にぶち当たり、何とか「自分の思う良い経営者」を目指しましたが、入社後10年程度でその会社を売却することとなってしまいました。その過程をご覧ください。
壁1 変化が怖い
まず、入社してから3か月ほど、顧問税理士の元に毎日通い、財務諸表の見方や会社の状況を教えていただき、それに対する解決策を模索しました。
初めて自社の財務諸表を見たとき、何十年も前に初代社長(私のおじい様)が蓄えた不動産含む資産を見て安心し、それと同時にここ十五年近く、ずっと一定の赤字を垂れ流している状態に恐怖しました。赤字の理由は本当に数えきれない位ありますが、一部を抜粋すると
・取引数が年々減っている(需要減+製品に魅力がなく客離れ)
・昔からの付き合いのある取引先に利益無視のサービスを継続
・お客様第一を謳った無茶な商品展開(要望があれば何でもやる)
・広告宣伝をほとんど行わない体質(古くからの取引先頼り)
というような体たらくでした。
とにかく、現状を続けていては良くなる兆しは殆どなく、体質を変えなければならないことが一目瞭然であるにも関わらず私は
変化が怖い・・・
という考え方を中々変えることができませんでした。今でこそ当時を振り返って「当時、なぜ悪いと感じていたところを改革、改変しなかったのか」と考えることがありますが、当時は業界の知識も少なく、新たな物事にチャレンジしていく気概もなく、現状のやり方を踏襲したまま会社を立て直すにはどうしたらよいかを考え、やり方を変えるという結論を出すことはできませんでした。
壁2 変化を嫌うあまり無理に大きな組織づくり
変化することができない自分と家業は、まだギリギリ息のあった2代目社長である父と話し合った結果、近隣の同業企業と業務の提携(というよりも需要減によって廃業する同業他社の従業員と顧客を引き受ける)という道を選択しました。
この方法であれば、スケールメリットによって経費を削減し、同じ仕事を同じように行えるのではないかと考えたからです。
目論見通り、提携後の事業規模は1.3~1.5倍となり、提携初年度は念願の黒字を計上することができました。これを継続させることができれば正に快挙です。
ですが、変化を嫌うわが社では根本的なところは全く解決していません。また、需要も減っていることから、どんどん売り上げが減少し、わずか2年ほどで再度赤字を垂れ流すような会社に逆戻りしました。また、提携によって従業員を受け入れた結果、従業員の派閥問題や会社の方針に従えない者の業務のボイコット、従業員の露骨なお客様贔屓(元の従業員は昔ながらのお客様を、新たに受け入れた従業員は受入元からのお客様を贔屓)、等で社内はグダグダでした。
壁3 事業に対する知識の不足
さて、私の父親である2代目社長は業務提携1年後の決算を見ることなく無くなってしまい、このころは名実ともに私が社長としてやっていました。実は2代目社長はけっこうなワンマンでしたが、病気になってからは入院生活が長く、最後は数か月間、会話するのも困難だったため、引継ぎがあまりできませんでした。
なので、私は
やらなければいけないことがわかりませんでした(笑)
「社長なら自分の好きなように割り振ればいいじゃん」と思われるかもしれませんが、2代目がどのような仕事をしていたかがわかりませんし、知っている人もいませんでした。
もともと新卒→商社勤務でしたので食品工場の知識がなく、業務を維持していくために絶対に必要な「飲食業営業許可(及びそれに伴う食品衛生責任者の設置)の更新」や、県の業務を請け負うために必要な入札参加資格申請、HACCPの更新申請、運送事業も兼務していた為、運送業の許可(及びそれに伴う運行管理者の設置)等のことも全く無知だった為、更新時期が迫って案内が来て初めて存在を知っててんやわんや・・・といったことが続き、そもそもの「現状を続けていても先はない」という部分から完全に目を背けていました。
壁4 設備の更新と借金したくない病
何とか許認可関係を片付けても黒字に転ずるわけはなく、さらに多くの機械設備に寿命が来て、更新や大規模修繕が必要となりました。
ここで当たり前のことですが、機械設備を一新したことで赤字が減ることはなく、事業そのものを変化させなくては意味がありません。ここまでで私が社長に就任して5年ほどが経っていますが、入社時に感じた「変化しなければいけない」ということを理解していながら実行することはできていません。今後実行できるのかも不明です。
ここから最低限の修繕を行いつつ、今後の人生を考えたとき、私はどうしても「大金を借り入れて事業を変化させて、現在の赤字を黒字に変える!!」と決心することができず、1年ほど悩んだ結果、会社を他社に売却することを決めました。
書いていて、まあなんとも恥ずかしい経営者時代の思い出ですが、同じようなことを思っている経営者もいないわけではないでしょう。ひょっとすると、2代目、3代目の経営者の中には相当数いるのかな?とも思います。
次回は今の行政書士としての立場から、自分自身と、同じように悩んでいる方がもしいればその方に僭越ながら簡単なアドバイスをしたいと思います。
今回ここまで読んでくださった方は、ぜひ次回も読んでください。お願いします。