こんにちは。行政書士の石濵です。今回は、プライベートで新しいマンションを探しているときにふと気になった「事故物件の告知義務」に関して調べたので、解説します。

事故物件とは

 事故物件と聞いてぴんと来る方も多いと思います。簡単に言うと、”過去に何らかの原因で居住者が死亡した物件”の事ですが、明確に決まっているわけではありません。「自殺」「他殺」「自然死」の括りの中でどのように亡くなったかによっても印象が変わってきますし、そもそもその括りのうちどれか断定できないケースもあるでしょう。人は必ずいずれは死ぬもので、安らかにお亡くなりになった方が住んでいた部屋を事故物件と呼ぶのも少し語弊があるような気がします。血が飛び散ったり、匂いがついてしまったり、様々なケースが考えられるため、どのような状態を事故物件と呼ぶのかは明確には定まっていないのです。

告知義務の根拠

 「殺人があった冷は告知義務がある」等の情報が独り歩きしている感がありますが、当然これ以外にも告知を必要とするケースはあります。具体的には宅建業法47条を根拠としています。条文を見ていきましょう。

宅建業法47条
宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
1.宅地若しくは建物の売買、交換若しくは賃借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為

宅地若しくは建物の売買、交換若しくは賃借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為

イ 第三十五条(いわゆる重要事項説明)第一項各号又は第二項各号に掲げる事項

ロ 第三十五条の二(割賦販売の場合の重要事項説明)各号に掲げる事項

ハ 第三十七条(契約書のようなもの)第一項各号又は第二項各号(第一号を除く。)に掲げる事項

イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの(以下略)

 事故物件に関する告知義務の根拠は最後の部分の”宅建取引業者の相手方の判断に重要な影響を及ぼすことになるもの”が該当します。つまり根拠となる条文の中に”殺人”や”自殺”という言葉はなく、相手が契約等の判断に必要な様々の要素の一例として告知しなくてはいけないもののうちの一つという扱いです。

心理的瑕疵ってなに

 ここで、不動産屋さんが事故物件を仲介する際にネットやチラシに書かれていることがある心理的瑕疵という言葉について解説します。
 まず、瑕疵という言葉は法律を勉強するとよく目にする単語で、「不具合」とか「欠点」という意味で用います。不動産の世界だと、例えば対象となる物件に雨漏りがあったり壁にヒビが入っていたり、地盤が極端に緩かったり、というようなことです。不動産取引の場合、対象物件に瑕疵があれば通常は契約前の重要事項説明で取引相手に瑕疵の内容を伝えなければなりません。
 心理的瑕疵とは、瑕疵の中でも目で実際に目には見えない瑕疵のことで、多くの場合は過去に当該物件で事故や自殺がある等いわれなければわからない不具合の事です。媒体の備考欄までよく確認すし、心理的瑕疵に関する記載がないかチェックしましょう。

結局、心理的瑕疵はどのくらいまで告知するの

 前述のとおり、明確な基準は決められておらず、不動産業者ごとに対応が異なります。金額が大きいので、業者としてはできる限り告知は少なくしたいでしょうし、買主側はできる限り告知をしてほしい所でしょう。
 一般的には心理的瑕疵の発生後、次のオーナー又は賃借人には告知しても、それ以降オーナー及び賃借人には告知しないことが多いと聞きます。

 ここでひとつ、客観的なデータを出します。

第22回 賃貸住宅市場景況感調査

 こちらは公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が定期的に出している賃貸住宅市場に関する調査報告書で、こちらに心理的瑕疵に関する調査がありました。

 一部抜粋すると、告知する期間は1回目の賃貸人までが35.1%、2回目の賃借人の変更までが14.9%と半数が2回以上賃借人を変更した場合は告知しなくなり、半永久的に告知する割合は14.9%に留まりました。
 もちろんこのデータからは心理的瑕疵の度合いはわかりませんが、事故物件という告知のない部屋が、何代かさかのぼれば実は事故物件でしたということが起こりえるのです。

事故物件を避けるために

 正直なところ、確実に事故物件を避けることは難しいのかもしれません。ですが、少しでも事故物件のリスクを低減する為に以下を試してみてはいかがでしょう。

① 事故物件表示サイトを確認する

 大島てるさんのサイトが有名ですが、ほかにも事故物件表示サイトがたくさんあります。入居を決める前に確認しましょう。

② 物件名が変更されていないか調べる

 特段の大規模リフォーム等がないのに物件名が変更されていた場合は、何らかの事故がありそれを隠すために物件名が変更された可能性があります。物件名をネットで調べるか、不動産屋さんに確認しましょう。

③ 不自然なリフォームをしている

 共同住宅なのに、特定の部屋のみリフォームされていたり、室内でも一部だけ異様に新しかったり、何かしら不自然な点があれば不動産屋さんに確認することをお勧めします。

 いかがでしたでしょうか。賃貸の場合だと、後で事故物件だとわかっても引っ越しをする程度で済むかもしれませんが、購入の場合だと致命傷です。明らかな事故物件であるにも関わらず告知が無い場合は法的手段を用いることももちろん可能ですが、手間や費用が掛かってしまいます。まずは自分でできる限り綿密に調べましょう。
 今回はここまでです。次回もよろしくお願い致します。