こんにちは。行政書士/社会保険労務士の石濵です。今回は、外国人を雇用した場合に社会保険や労働保険をどのように適用するのか、また各種法令を適用する場合にどこの国の方を適用するのかについて解説します。

 令和3年10月に厚生労働省が発表した外国人雇用状況によると、コロナ禍においても外国人労働者の総数は前年の労働者数を超え、過去最大人数を更新しました。2022年3月より外国人入国規制が緩和され、短期・長期滞在で企業側(又は団体等)が申請があれば入国を認められています。今日現在(令和4年9月)新型コロナの流行もかなり落ち着き、素人目線ですがひと段落した印象があります。今後も日本企業の需要も相まって今後も外国人労働者が増加していくことはほぼ間違いないと思われます。

 このような非常に多くの外国人労働者がいる中で、社会保険や労働保険などのは一体どのように対応すればよいのでしょうか。

外国人労働者の雇用について

 「初めて外国人を雇用するにあたり、いったい何を参考にすればよいのか」と心配される経営者の方は非常に多いと思います。日本人のみを雇用のターゲットにすることがだんだんと難しくなってきたからです。これは、私が食品工場の経営をしていた平成28年ごろから実感として感じられました。

 まだまだ日本人の求職者は多いとは思いますし、外国人の雇用を避け続けても採用活動が可能な企業はそれでも良いかもしれませんが、日本の少子化もあり、今後日本人に限った採用活動が限界に達する企業、事業所も増えてくることは容易に想像できます。

 さて、外国人の雇用を始めるにあたり、厚生労働省では外国人雇用のルールとして、外国人雇用管理指針というものを発表しています。これは国が事業主に対して外国人の雇用に関し適切に処理できるように定めた指針で、ハローワーク等もこの指針をもとに助言、指導を行っています。

日本で雇用されることが可能な外国人

 違法就労という言葉を耳にしたことはありませんか。外国人はパスポートさえあれば日本で就職できるわけではありません。ここが外国人労働者の雇用を避けてしまう最大の要因となります。就労希望の外国人の方に就労資格があるのかをしっかりと見極めましょう。
 面倒かとは思いますが、少しでも不安がある場合は労働基準監督署やハローワークに確認して下さい。

在留資格とビザ

 まず、在留資格とビザは別物だということを念頭においてください。どちらも外国人の就労に必要なものですが、乱暴に説明するとビザは日本に入国するためのもので在留資格は入国後に審査を経て取得するものとなっています。
 したがって、日本国内において求人を行う際には在留資格を確認する必要があります。

日本で働ける在留資格は

 在留資格には

  1. 職種、業種を問わず就労可能な在留資格
    • 永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者など
  2. 一定の範囲の職種、業種、勤務内容に限って就労が可能な在留資格
    • 教授、芸術、宗教、報道など
  3. 就労の際に資格外活動の許可が必要な在留資格
    • 文化活動、留学、家族滞在など

が存在します。

詳しくは出入国在留管理庁のHPをご確認ください。

出入国在留管理庁HP 在留資格一覧 

外国人労働者に適用される各種法律

 皆様は属地主義という言葉をご存じでしょうか。属地主義とは「自国の領域で発生した事象には自国の法を適用する」という考え方で、労働、社会保険に関する法律の多くは属地主義的な考え方で運用されています。すなわち、日本にある日本の企業及び外国企業の日本支社等は日本の労働、社会保険に関する法例が適用され、外国にある日本の企業や外国にある外国の企業は当該外国の法例が適用されるといった形です。これは外国人雇用管理指針にも明記されています。

外国人雇用管理指針 第二(外国人労働者の雇用管理の改善等に関して必要な措置を講ずるにあたっての基本的な考え方) より要約

事業主は、外国人労働者について、雇用対策法、職業安定法、労働者派遣法、雇用保険法、労働基準法、最低賃金法、労働者安全衛生法、労災保険法、健康保険法、厚生年金保険法を遵守し適切な措置を講ずるべきである

外国人に対する労働契約

 前述しましたが外国人の雇用管理指針中に労働基準法等の労働法例を守らなければいけない旨が記載されています。したがって労働契約は日本人の労働者と同様に行う必要があります。

労働契約のルールに関してはこちらをご覧ください

 労働契約のルールに関して採用時には一定の労働条件を書面等で明示しなければいけないというルールがありました。これは「雇用する外国人労働者は日本語が読めないから書面を発行しなくてもよい」というものではありません。必ず書面等で明示をしてください。
 なお、厚生労働省から主だった外国語の労働条件通知書をダウンロードして使用することも可能です。「相手の理解できる言語で」とは特段明言はされていませんが、のちの紛争を避けるためにできる限り労働者に合わせた言語を使用しましょう。

外国語の労働条件通知書ダウンロードはこちら(厚生労働省HP)

外国人の雇い入れ時・離職時の届け出ルール

 外国人労働者のうち、日本国籍を有しない者(特別永住者を除く)で在留資格が「外交」「公用」以外の者は、雇用時及び離職の際にハローワークへ外国人雇用状況を届け出なければなりません。

 届け出のタイミング及び提出先のとなるハローワークは雇用保険加入の有無によって異なります。

その他、外国人労働者に対する各種規定

 外国人労働者に関する主な規定としては次のようなものがあります。(要約・抜粋)

労働政策推総合進法
  • 事業主は、雇用する外国人が能力を有効に発揮できるように職業に適応することを容易にするための措置等の改善に努めるとともに当該外国人労働者が再就職を希望する際には市就職の援助に関し必要な措置をするように努めなければならない
  • 事業主は外国人労働者を常時10人以上雇用するときは、雇用労務責任者(人事課長等で外国人労働者の雇用管理に関する責任者)を選任することとする

外国人労働者の保険加入について

 ここまででも述べましたが、外国人であっても各種労働保険、社会保険に関する法律は原則日本人と同様に適用されることとなります。具体的には以下をご参考ください。

脱退一時金

 労災保険や雇用保険、健康保険などは労働者の身に何らかのトラブルがあった際に真価を発揮する「転ばぬ先の杖」的側面が強く、仮に保証を受けることができなかったとしても仕方のない部分がありますが、長期間滞在しない外国人労働者が国民年金保険料や厚生年金保険料を支払ったとしても、メインの給付である老齢による支給を受けることは非常に困難です。

国民年金及び厚生年金の老齢を原因とする給付の受給に関してはこちら(※リンク:イシハマ事務所※)

 そのため、国民年金、厚生年金には一度支払った国民年金保険料及び厚生年金保険料の一部を取り戻す「脱退一時金」という制度があります。

国民年金の脱退一時金の支給要件及び支給金額

 国民年金の脱退一時金の支給を受けるためには以下の要件を満たす必要があります。

  • 日本国籍を有していないこと
  • 厚生年金又は国民年金の被保険者でないこと(厚生年金被保険者、国民年金被保険者の要件を満たしていないこと)
  • 第一号被保険者及び任意加入被保険者としての納付済み期間が6か月以上あること
  • 老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていないこと
  • 障害基礎年金その他政令で定める給付を受けたことがないこと
  • 時効(被保険者としての資格を喪失した日から起算して2年経過で時効となる)
  • 国民年金法に相当する外国の法令を受ける者、または受けたことがある者で政令で定めるもの(社会保険協定締結国で日本での国民年金加入期間を当該外国の年金加入期間として扱う場合等)でないこと

国民年金の脱退一時金の金額

 国民年金の脱退一時金の金額は次のような計算式によって算出されます。

 また、計算式の中にある「支給額計算に用いる数」とは基本的には加入期間を指します。ですが、加入期間そのものではなく次の表のように修正された数字を用います。

 見てもらってわかるように国民年金の第一号被保険者として支払った金額の半分以下、しかも最大で60か月(5年)しか戻ってこないことがわかります。これは、国民年金の保険要素(障害基礎年金、遺族基礎年金)、すなわち「転ばぬ先の杖」の部分以外の部分が返ってくるという認識で良いかと思います。

 なお、国民年金の第一号被保険者として保険料を支払った期間には、前年の所得金額等によって一部免除を受けられる期間があります。一部免除を受けた場合はその免除の割合に応じ納付済み期間の修正を行います。なお、全額免除期間及び納付猶予期間に関しては納付済み期間とみなさず、被保険者であったとしても脱退一時金の計算の基礎とはなりませんのでご注意ください。以下、免除期間の詳細となります。

厚生年金の脱退一時金の支給要件

 国民年金と同じように厚生年金被保険者にも脱退一時金があります。支給を受けるための要件は次のようになります。

  • 日本国籍を有していない
  • 厚生年金又は国民年金の被保険者でないこと(厚生年金被保険者、国民年金被保険者の要件を満たしていないこと)
  • 厚生年金被保険者としての納付済み期間が6か月以上あること
  • 老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていないこと(受給資格期間は国民年金と厚生年金で同じ10年となります)
  • 時効(被保険者としての資格を喪失した日から起算して2年経過で時効となる)
  • 障害厚生年金その他政令で定める給付を受けたことがないこと
  • 厚生年金法に相当する外国の法令を受ける者、または受けたことがある者で政令で定めるもの(社会保険協定締結国で日本での国民年金加入期間を当該外国の年金加入期間として扱う場合等)でないこと

厚生年金の脱退一時金の金額

 計算式は以下のようになります。

※1被保険者期間であった期間の平均報酬額は、以下のAとBを合算した額を全体の被保険者期間の月数で除した額をいいます
A 平成15年4月より前の被保険者期間の標準報酬月額に1.3を乗じた額    
B 平成15年4月以降の被保険者期間の標準報酬月額及び標準賞与を合算した額
※2支給率とは最終月(資格喪失した日の属する月の前月)の属する年の前年10月の保険料率(最終月が1月~8月であれば前前年10月の保険料率)に2分の1を乗じた率に、被保険者期間の区分に応じた支給率計算に用いる数を乗せたものをいう

厚生年金の脱退一時金の支給率計算に用いる数

厚生年金の脱退一時金を計算する際の支給率計算に用いる数は以下をご覧ください。

今回はここまでです。ご覧いただきありがとうございました。