こんにちは。行政書士/社会保険労務士の石濵です。今回は労働契約について簡単に解説します。

労働契約と労働条件の通知

 早速ですがサラリーマンの皆様、会社と労働契約を結んでいますでしょうか。

 契約とは何も仰々しく分厚い書類にハンコを押して・・という工程を経なければいけないわけではありません。一般的な契約等のルールが定められている民法では口頭でも契約を締結することは否定されていませんし、労働基準法上も特段の問題はありません。但し、労働基準法独特のルールによって書面を用いらなければいけないケースも有ります。
 労働基準法ではどのような条件で労働するのかを労働者に書面(又はFAX,Eメール)で通知する義務があります(労働基準法第15条1項)。ですので多くの場合は労働契約書を書面で作成しています。

 また、通知の際に必要となる内容も労働基準法で定められています。必ず通知しなければならない内容を”絶対的明示事項”、定めがあるのであれば明示しなければならない事項を”相対的明示事項”と言います。絶対的明示事項は一部を除き書面(又はFAX、Eメール)で通知しなければなりませんが、相対的明示事項は口頭その他の方法での通知でも構いません。ですが、言った言わないの争いに発展しかねませんので多くの企業は書面等での通知を必要としない相対的明示事項や相対的明示事項に関しても初年で通知をしているケースがほとんどです。絶対的明示事項、相対的明示事項の詳細は以下のようになります。

 

 契約時、あるいは契約前に上記の労働条件に関して明示を受け、それを基礎として労働契約を締結することとなります。この労働条件の明示義務を果たしていない場合、雇用する側は労働基準法違反で罰則(30万円以下の罰金)が科せられるおそれがありますが、それをもって「労働契約が締結されていない」とはなりません。上記表で書面が必要となっている部分の明示が書面によってなされなくとも有効なものとして扱われますし、そもそも特段の取り決めがなく労働契約を結んでしまった場合は就業規則に則った契約となります。

 口頭で明示を受けたが実際の条件と違っていた場合は即時に労働契約を破棄することも可能です(労働基準法第15条2項)し、実際の条件で雇用を継続する

ことも可能です。但し、どうしても会社に対して不信感が生まれてしまいますのでお互いの為に労働契約前にすべて書面で確認することをお勧め致します。

労働契約に盛り込んではいけない内容

 労働契約は労働者と使用者で定めた契約であり、基本的にはそれ以外の者が介入することはなく、内容は自由に設定することができます。ですが、労働基準法で一部のだけは制限されています。

①賠償の予定

 退職する際に違約金を定めること、また使用者が労働者に損害賠償をする際の額をあらかじめ定めることは禁止されています(労働基準法第16条)。

 前者は、例えば「求人するのにお金がかかるので、2年以内に辞めた場合は求人費用を請求する」や「教育に費用がかかるので2年以内に辞めた場合は教育費を請求する」というようなケースが想定され、また後者は「社用車で事故を起こした場合は一律30万円を賠償する」「遅刻をした場合は賠償金1万円を科す」などのケースが想定されます。

 よく聞く話ですが、使用者にはいずれも6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という相当に重い罰則が科され、使用者と労働者との契約も当然に無効となります。

 但し、使用者が労働者に損害賠償を請求すること自体は合法あり、損害額をあらかじめ定めることなく労総契約に盛り込むことは可能です。例えば「社用車で交通事故を起こした場合は損害相当額を賠償する」みたいな内容を労働契約に盛り込むことは可能です。

②前貸金の相殺

 労働契約の締結前に労働者にお金を貸し、労働することで借金を賃金から控除する形で返済させるような契約を締結することはできません。考え方によっては労働の強制となってしまうからです。

 但し、この場合の相殺の禁止とは、あくまでいずれかの一方的な意思による相殺を禁止しているにすぎません。労働者が自らの意思で相殺を望むのであればこの限りではありません。

 なお、反した場合は①同様6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の罰則が科されます。

 明らかに身分的な拘束を含まない債権や個人的信用に基づく債権の相殺はこの規定に含みません。給与一部(少額)を前貸し、それを相殺したり個人的な会食代金を立て替え、後に清算する等が考えられます。

③強制貯金

 会社で貯金をすること、他社に貯金をさせることを労働条件の一部にすることは禁止されています。これは、会社が運用した結果労働者への返済が困難になったしまったり、労働者が貯金の返済がされない事を恐れ退職しにくくなったり等を想定しての項目となります。

 但し、労使協定を締結した上で労働基準監督署へ届け出をした任意貯金(労働者自らの意思で会社又は指示のあった第三者への貯金)は認められています。この規定に則った場合は使用者は毎年決まった時期に労働基準監督署へ報告をしなければならず、また利息(年5厘以上)を付さなければならない事から、決して労働者にとって不利なものではありません。

 こちらも反した場合は①②同様6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の罰則が科されます。

労働契約が無効になる場合

 労働契約を締結した場合は使用者労働者双方に契約を遵守する義務が生じます。通常労働者と使用者の契約はその双方で同意すれば双方に順守義務が生じますが、契約の最低基準が存在し、その契約に満たない契約は無効となります。

 契約の最低基準は、ご存じの通り労働基準法です。労働基準法では労働時間の上限や休日の設置等の規定があり、それに満たない契約は無効とされ、代わりに労働基準法に定められた内容となります。

 例えば労働契約で「1日12時間労働」となっていた場合、例えそれが使用者と労働者で合意した契約であっても労働基準法で定められた「1日8時間労働」に変更されます。