こんにちは。行政書士の石濵です。今回も前回に引き続き、相続に関する民法の解説をします。今回も前回までと同様に遺言に関する規程となります。
 なお、第1000条は削除されていますので、概略だけ解説します。

民法第1000条(第三者の権利の目的である財産の遺贈)⇒削除

 本条は削除された規定ですので、概略だけ説明します。簡単に表現すると、「遺言者が死亡し遺言に書かれている遺贈が実行される際に、遺贈が他人物となっていた場合、いくら遺言に当該財産をあげると書かれていても、すでに他人の物なので、受遺者は遺言実行者に現在の所有者から自分に権利を移すような要求はできませんよ。(但し特段の意思表示があれば話は別だよ)」という内容の条文でした。
 おさらいになりますが、改正前までは基本的概念として、不特定物(一点もの)以外の物の遺贈は遺言作成時の状態のまま引き渡すこととなっていました。ですが、遺言作成時と遺言実行時に時間的隔たりがあるのは当然で、多くの物は時の経過とともに劣化、滅失します。
 そもそも遺贈とは無対価性が基本ですので、遺言者亡き後の遺贈義務者に多大な責任を付与するのはおかしいとの観点から、遺贈は特定物、不特定物にかかわらず遺言者が亡くなり相続が開始された時の状態で引き渡せば良いこととなりました。(第998条の改正)
 これに伴い本条がある必要がなくなったために削除されるに至りました。

第1001条(債権の遺贈の物上代位)
① 債権を遺贈の目的とした場合において、遺言者が弁済を受け、かつ、その受け取った物がなお相続財産中に在るときは、その物を遺贈の目的物としたものを推定する。
② 金銭を目的とする債権を遺贈の目的とした場合においては、その相続財産中にその債権額に相当する金銭がないときであっても、その金額を遺贈の目的としたものと推定する。

 遺贈の目的物の権利が第三者に帰属している場合、遺贈は効力を生じないという条文がありました(第996条)。ですが、そのような場合でも、代わりの物を遺贈として受け取ることができるケースがあります。
 ①では、例えば遺贈対象物が何らかの理由によって形を変えてしまっても、その形の変わった物が相続財産中にある場合は当該代わった物を目的物と推定して受け取ることができるという内容です。
 具合的には、家を受贈されるはずが、火事で滅失してしまった場合、その家の火災保険として入ってきた金銭を目的物と推定して受け取れるというようなことです。
 ②では、遺贈対象物が現金だった場合、「相続開始時に現金がないから遺贈は香料を生じない・・無効だ・・」とするのではなく、動産や不動産を換価して遺贈を受ける、又は債権として現金を受け取る権利を得ることができるというような内容となっています。
 なお、条文中に「推定」とありますが、「推定」とは、「違うという反証が無ければ~のように考える」という意味です。似た言葉に「みなす」というのがありますが、「みなす」は「(たとえ違っていても)事実であるとして扱う」という意味で、混同しないようにしましょう。

第1002条(負担付遺贈)
① 負担付き遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
② 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。但し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

 負担付遺贈とは、マイナスの事柄を受け入れることと遺贈がセットになっているようなものです。「犬の生活の面倒を見る代わりに土地を遺贈する」ようなケースを考えればわかりやすいかもしれません。
 そのような場合、負担部分が目的の価額を超えない範囲で義務を履行しなければなりません。上記例の場合は、特段の事情がない限り犬の生活の面倒は犬を相続した相続人が行うはずなのですが、遺贈の見返りとして、受遺者が生活の面倒を見ます。
 なお、本筋からは逸れますが、「一所懸命面倒を見る」「誠心誠意面倒を見る」みたいな負担を課すことは法的に難しいと思いますのでご了承ください。
 なお、②では受遺者の遺贈放棄の場合について記載されています。その場合は受益者が負担を引き受けなければなりません。上記例で行くと、犬を相続した相続人ですかね。

第1003条(負担付遺贈の受遺者の免責)
負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴えによって減少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じて、その負担した義務を免れる。但し、受遺者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

 限定承認とは「相続開始時に資産と負債のどちらが多いかわからないから、資産が負債を上回った部分のみ相続する」という相続方法です。また、遺留分回復の訴えとは、「遺言書に書かれていた相続財産が法律で定められた最低額よりも少ないから、最低額まで補填してもらうようにする請求」のことです。
 これらを理由として遺贈を満足に受け取れない場合、その割合に応じて負担も減少することが記載されています。

第1004条(遺言書の検認)
① 遺言書の保管者は相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を受けなければならない。遺言書の保管者がいない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
② 前項の規定は、公正証書による遺言については適用しない
③ 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立ち合いが無ければ開封することができない。

 検認とは、その遺言書が、確かに遺言者によって書かれていたもので、かつその後相続人他第三者の手で変更されていない事を裁判所で確認し認定する制度です。公正証書遺言の場合は公証人がすでに確認済みなので必要ありませんが、自筆証書遺言や秘密証書遺言(法務局で保管してある場合等を除く)は検認が必要となります。
 検認をすると、裁判所から検認済み証明書が発行されます。これは遺言による相続を行った際に金融機関で故人の現金を引き下ろす場合や個人の不動産の名義変更の際に必要となる大切なものとなります。
 手続きは故人の最終居住地を管轄する家庭裁判所で行います。手続きは家庭裁判所に問い合わせるか、お近くの司法書士、行政書士の先生にご確認ください。間違っても勝手に遺言書を開封しないでください。罰則があります。

第1005条(過料)
前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処する。

 前条の規定に違反した場合、当該罰則があります。ご注意ください。

今回は以上になります。ご覧いただきありがとうございます。