こんにちは。行政書士/社会保険労務士の石濵です。今回は法的に労働組合として認められるためのルールや労働協約のルールなどを定めている労働組合法その他労働組合に関する法律について紹介していきます。

 毎年1月から2月ごろになると春闘などで労働組合と会社とが戦い、賃金や賞与が○○%上昇したという内容がテレビで散見されます。もちろん労働組合でなくても労働者が固まって会社と交渉したり会社に対して何らかの行動を起こすことは憲法第28条によって認められていますが、実際には一従業員という立場で会社と戦うことは非常に難しいことです。

第二十八条

勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

 憲法28条によって定められた内容は労働組合であろうがただの労働者の集まりであろうが直接適用される者ですが、もし労働者個人で会社と戦った場合、会社が不利益を被れば損害賠償を請求されることもあれば、場合によっては懲戒解雇となってしまう可能性もあります。どういうことでしょうか。

労働組合とそれ以外の労働者の集まりの違い

 労働組合法で認められた労働組合は厳格な基準があり、それに沿って設立、継続されることとなります。かなり細かい規定もある上に、あくまでも会社に対して労働条件向上などを訴える団体ですから会社から金銭的な援助を受けることも禁止されています。ただし、法的に認められた労働組合として活動することにより様々な恩恵を受けることができます。

 法的に認められた労働組合とそれ以外の労働者の団体では共に団結し、団体行動、団体交渉をすることは可能ですが、労働組合は労働組合法及び労働関係調整法によってストライキやサボタージュ等の行動を起こしても処罰されず、損害賠償等も請求されないこととなっています。その他の違いに関しても順を追って説明していきます。

労働組合の要件

 労働組合は労働者が主体となって自主的に(労働者の所属している会社の意思とは関係なく)労働条件の維持改善、その他の経済的地位の向上を図ることを主たる目的としています。そのため、所属する会社の意思が労働組合の行動に反映されてはいけませんし、労働組合の名を語った別の目的の団体(政治団体等)となってはいけません。そのため、以下のいずれかに該当する場合は法的に有効な労働組合となることはできません。

  • 使用者の利益を代表する者(役員や管理監督的地位をもつ労働者)の参加を許すもの
  • 団体の運営のための経費の支出につき経理上の援助を受けるもの
  • 共済事業その他福利厚生事業のみを目的とするもの
  • 主として政治運動又は社会運動を目的とするもの

 なお、経理上の援助とは例えば専従の労働組合員の賃金をすべて会社が負担する等を指します。会社が就業時間中に組合との交渉をし、交渉時間中も賃金を支払いを継続することや組合員室を会社内に設置する程度の援助は対象外となります。

 そして、労働組合に必要な要件は以下のようになります。

  • 労働者が主体となって結成すること
  • 労働者による自主的な団体であること
  • 労働条件の維持、改善を団体の主目的にすること
  • 組合員規約に以下の取り決めを盛り込むこと
    • 労働組合の名称
    • 組合事務所の所在地
    • 組合員全員が差別的な取り扱いを受けないこと(あらゆる組合の問題に参加できること)
    • 組合員はどんな場合でも人種や宗教、性別、身分などの違いで組合員としての資格を奪われないこと
    • 役員の選挙は、組合員(又は代議員)の直接無記名投票で行うこと
    • 総会は少なくとも毎年1回開くこと
    • 組合費の経理状況を少なくとも毎年1回組合員に公表すること
    • ストライキは、組合員(又は代議員)の直接無記名投票により過半数の同意がなければ行わないこと
    • 規約改正をするときは、組合員の直接無記名投票により過半数の支持がなければ行わないこと

 これらを兼ねそろえた規約作成後、決起大会を行い、その後会社への設立の通知を行います。

不当労働行為(組合員への不利益取り扱い等)の禁止

 法的に有効な労働組合の組合員に対して会社は不当労働行為をすることはできません。不当労働行為とは、組合員であることや組合員として活動を行ったことに関して労働者に不利益な取り扱いをすることです。具体的には次のようなものが挙げられます。

  • 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入したこと、決済しようとしたこと、または労働組合の正当な行為をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他その労働者に対して不利益な取り扱いをすること
  • 労働者が労働組合に加入しないこと、または労働組合から脱退することを雇用条件とすること
  • 使用者が雇用する労働者の代表と団体交渉することを正当な理由がなくて拒むこと
  • 労働者が労働組合を結成し、または運営することを支配し、またはこれに介入すること
  • 労働組合の運営のための経費の支払いにつき経理上の援助を与えること
  • 使用者が不当労働行為をしたことに対し労働委員会等に違反したことに対する申し立てなどをした際に労働者に対し不利益な取り扱いをすること

正当な争議行為って

 法的に認められた労働組合の一番の特権として会社に対し正当なやり方で争議行為(ストライキ、サボタージュ、ロックアウト等)を行った場合に企業側から賠償請求をされないということが挙げられます。ですが争議行為とは労働者が自らの主張を通すために業務の正常な運営を阻害する行為なので、例え法的に認められた労働組合であっても“いつでもどこでもご自由に”というわけにはいきません。争議行為の定義や争議行為のルールに関しては主に労働関係調整法に規定されています。

労働争議

 労働関係の当事者において労働関係時関する主張が一致しないで、そのために争議行為が発生している状態または発生する恐れがある状態をいいます。
 なお、争議行為とは前述したようにストライキ、サボタージュ、ロックアウトその他労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行う行為及びこれに対抗する行為であって、業務の正常な運営を阻害するものを言います。

 (同盟罷業)ストライキ

 労働者の団体が事故の主張を通すために一時的に業務を停止することです。労働者が労務の提供を拒否するということで、会社側へのダメージは非常に大きいです。最近はあまり聞きませんが、2004年のプロ野球ストライキ事件が記憶に残っている方は少なくないと思います。
 似た言葉にボイコットがあります。線引きは非常にあいまいですがボイコットとは、特定の集団が自分たちの要求を通すために特定の相手に対して不買・排斥活動を行うことです。

サボタージュ

 「サボる」の語源です。労働者の団体が要求を通すために意識的に作業能率を落とし作業をすることです。完全に労務を提供しないものを“ストライキ”として区別しています。
 フランス語圏内や英語圏内では積極的に機械を破壊して能率を落とす「積極的」サボタージュという意味合いもありますが、こと日本においてはあくまでも単純に労働効率を落として作業することを指し、積極的サボタージュは正当な行為として認められにくい傾向があります。

ロックアウト

 新型コロナの流行でロックアウト=外出(流出)禁止というイメージが出来上がってしまいました。労働法においては使用者が労働者に対して行う手段であり、っ使用者が職場や現場を封鎖して労働者からの労務を受け入れないという行動を指します。

正当な争議行為を起こす際にに労働組合がしなければならないこと

 正当な争議行為と認められるためには以下の要件を満たさなければなりません。

争議行為実施可否の協議

 争議行為を発生させる際は、まず労働組合内で意思統一をしなければなりません。具体的には労働組合内で無記名投票を行い、組合員又は組合員の直接無記名投票で指名された代議員のうちいずれかの過半数を超える賛成が必要となります。

争議行為の届け出

 争議行為が発生したときは直ちにその旨を労働委員会又は都道府県知事に届け出る必要があります。ただし、公益事業(運輸、郵便、信書便、電気通信、水道・電気もしくはガスの供給、医療又は公衆衛生の事業であって、公衆の日常生活に書くことのできないもの)に関する争議行為の場合は少なくとも争議行為実行の10日前までに労働委員会及び厚生労働大臣または都道府県知事に通知しなければなりません。