こんにちは。行政書士/社会保険労務士の石濵です。今回はみなし労働時間制について解説します。
 皆様、みなし労働時間制という言葉をご存じでしょうか。サラリーマンの方からすると“みなし残業か(固定残業代制)”の方がよく聞く言葉かもしれません。みなし労働時間制とは、外回りやポスティングなど、労働時間の管理がしにくい労働者や、研究職など労働時間という枠に当てはめにくい業務を担当している労働者などに対し、実際に働いた時間にかかわらずに事前に決めた労働時間を働いたとみなす制度です。
 そして“みなし残業(固定残業代制)”とは月に何時間化の残業をあらかじめ見込み、その残業代を定額として賃金に組み込む制度です。一見して似たような制度ですが、みなし労働時間制は労働時間全体にかかるものに対し、みなし残業は残業時間にのみかかる制度です。ほかにも対象となる労働者も違いますし、みなし残業はあらかじめ見込んだ残業時間を超えて残業をさせた場合は超えた時間に対し新たに残業代を支給しなくてはいけないという違いがあります。
 多くの方は“みなし労働時間制”は使用者側に有利な制度で、いわゆる“サービス残業”の温床になっているというイメージを持っているかもしれません。事実、このみなし労働時間制を悪用して、実際の労働時間よりも労働しているとみなされる時間の方が極端に短いというケースも見受けられます。それを防ぐためにみなし労働時間制を採用する場合は多くの制約があります。順番に紹介していきましょう。

みなし労働制の種類

 みなし労働制にはその特性に応じ①事業場外労働に関するみなし労働時間制➁専門業務型裁量労働制③企画業務型裁量労働制の3つの種類があり、それぞれ対象となる労働者や運用が異なります。順番に見ていきましょう。

①事業場外労働に関するみなし残業制

 外回りの営業、在宅勤務者、出張等労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事者いた場合において、労働時間が算定し難い時に、所定労働時間労働したものとみなす方法です。
 あくまでも“労働時間が算定し難い”ことが条件となりますので使用者の指揮監督は及んでいる業務についてはみなし労働時間が適用できません。
 また、あくまでも事業場外で業務した時間に限りこの制度の適用があります。事業場外の業務を終え、その後事業場内で事務作業を行ったという場合でもあくまでも事業場外の業務のみに対して適用されます。
 この事業場外労働に関するみなし労働時間制は所定労働時間以内に収まる場合と法定時間を超えて、その業務遂行に通常必要とされる時間を労働時間とみなす場合があります。
 所定労働時間内に収まる場合は労使協定等は不要ですが、所定労働時間を超えてその業務遂行に通常必要とされる時間を労働時間とみなす場合は労使協定が必要となります。さらに、法定労働時間も超えてしまう場合はその労使協定を所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。

➁専門業務型裁量労働制

 労働者の労働が専門的な労働で労働者自身が時間配分や業務遂行の手段を考えて労働した方が合理的であり、かつ使用者が具体的な指示をすることが困難な業務(対象業務)として厚生労働省令で定める業務に労働者を就かせる際に、事前に労使協定を締結させ実際の労働時間いにかかわらず労使協定で定めた労働時間を実際の労働時間として適用する制度です。
 この制度を適用する際には労使協定の締結はもちろんのこと、労使協定で定めたみなし労働時間が法定労働時間内であっても所轄労働基準監督署への届け出を必要とします。
 以下、厚生労働省で定める業務となります。

 また、対象業務に従事する労働者であっても専門型裁量労働制を適用するにあたり、労使協定には以下の内容を盛り込まなければなりません。

  1. 対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間
  2. 対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしない旨
  3. 対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた労働者の健康及び福祉を確保するための措置を使用者が講ずる旨
  4. 当該労使協定の有効期間
  5. 労働者の労働時間の状況及び労働者の健康、福祉を確保するための措置として講じた措置の記録の保存(労使協定の有効期間満了後5年、当面の間3年)をする旨
  6. 対象業務に従事する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該協定で定め、使用者がそれを講ずる旨
  7. 労働者からの苦情の処理に関する措置として講じた措置の記録の保存(労使協定の有効期間満了後5年、当面の間3年)を講ずる旨

 3の健康及び福祉を確保するための具体的な措置は厚生労働省発表したの指針で以下のように述べられています。

  • 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて大償休日または特別な休暇を付与すること
  • 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて健康診断を実施すること
  • 働きすぎ防止の観点から年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること
  • 心と体の健康問題について相談窓口を設置すること
  • 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること
  • 働きすぎによる健康障害防止の観点から必要に応じて産業医等による助言、指導を受け、または対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

 これだけの内容の労使協定を定めることによって、労働者の一日当たりの労働時間を、実際の業務時間にかかわらず労使間で定めた労働時間分だけ働いたとみなすことができるのです。
 なお、上記5の“当該労使協定の有効期間”ですが、不適切な運用を防ぐために3年以内とすることが望ましいと言われています。

③企画業務型裁量労働制

 企業のホワイトカラーの中でもごく一部の、それこそ事業の運営にかかわるような労働者を対象としたみなし労働時間制度となります。企画業務を担当している労働者だったら誰でも適用できるわけではありませんので注意が必要です。
 この制度を採用するためには、まず事業場内に労使委員会を設置しなければなりません。その労使委員会で定められた議事の議決(当該労使委員会の5分の4以上の多数によって決議となる)をし、その決議内容を所轄の労働基準監督署へ届け出なければならず、非常にハードルの高い精度と言えます。
 また、他のみなし労働時間制と違いこの制度を適用するためには本人の同意が必要となります。労使協定のように労働者の代表と使用者のみで適用者を決めることはできません。

労使委員会ってなに

 労働組合と混同しがちですが、まったく別の組織です。労働組合は労働者のみで構成される組織なのに対し、労使委員会は使用者サイドと労働者サイドが一緒になって賃金や労働時間など労働条件に関する事項を審議調査する組織です。
 労使委員会の議決はここで扱っている企画業務型裁量労働制を採用するための必須事項であるほか、本来であれば労使協定が必要な労使間の取り決めを採択する際に労使委員会の決議を労使協定に代えることができます。なお、労使委員会を設置する為には次のような要件があります。

  1. 使用者及び当該事業場の過半数代表者(過半数労働組がある場合はその代表者)を労使委員会の構成員とすること
  2. 労使委員会の委員の半数は当該事業場の過半数代表者(過半数労働組合がる場合はその代表者)に任期を定めて指名(管理監督者は指名できない)されていること
  3. 委員会の議事については議事録を作成し保存(5年間)すること。また議事録は当該事業場の労働者に周知すること
  4. 労使委員会の招集、定足数、議事その他労使委員会の運営について必要な事項に関する規定が定められていること

 企画業務型裁量労働制においての労使委員会の議決内容

 先述しましたが、企画業務型裁量労働制を採用するにあたり以下の内容を労使委員会の5分の4以上の多数での決議及びその議決を所轄労働基準監督署への届出、さらに企画業務型裁量労働制を適用する対象となる労働者の同意があって初めて企画業務型裁量労働制を適用することができます。

  1. 対象業務(事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務に限る)
  2. 適用する労働者の範囲(対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であって派遣労働者を除く)
  3. 適用する労働者のみなし労働時間
  4. 適用される労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該議決で定めるところにより使用者が講ずること
  5. 適用する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること
  6. 企画業務型裁量労働制を適用する際に労働者の同意を得ること及び同意せずに当該制度を適用できなかったことについて労働社に対して解雇その他不利益な扱いをしてはならないこと
  7. 当該制度を導入するにあたっての労使委員会の決議の有効期間(3年以内が望ましい)
  8. 使用者が労働時間の状況並びに当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置として講じた措置の記録を決議の有効期間中及び満了後5年間(当面3年)保存すること
  9. 使用者が労働者からの苦情の処理に関する措置として講じた措置の記録を決議の有効期間中及び満了後5年間(当面3年)保存すること
  10. 使用者が当該制度を適用する際に労働者から得た同意の記録を決議の有効期間中及び満了後5年間(当面3年)保存すること

 なお、8の健康及び福祉を確保するための具体的な措置は厚生労働省発表したの指針で以下のように述べられています。

  • 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて大償休日または特別な休暇を付与すること
  • 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて健康診断を実施すること
  • 働きすぎ防止の観点から年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること
  • 心と体の健康問題について相談窓口を設置すること
  • 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること
  • 働きすぎによる健康障害防止の観点から必要に応じて産業医等による助言、指導を受け、または対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

企画業務型裁量労働制の報告

 企画業務型裁量労働制は使用者が運用を間違えると適用労働者に多大な負荷をかける結果となってしまいます。ですから労使委員会の決議の届け出のほかに、定期的に諸葛労働基準監督署への状況の報告を義務付けられています。
 報告する内容は

  1. 制度を適用している労働者の労働時間の状況
  2. 制度を適用している労働者の健康及び福祉を確保するための措置の実施状況 

 の2つで労使委員会の議決が行われた日から起算して6か月以内に1回、その後1年以内ごとに1回(当面の間は労使委員会の決議が行われた日から起算して6か月ごとに1回)の報告が必要となります。

今回はここまでです。ご覧いただきありがとうございます。