※今回は具体的な法内容には入りません

 こんにちは。行政書士/社会保険労務士の石濵です。今回から数回に分けて、労働基準法について簡単に解説します。労働基準法という言葉は社会人であれば誰でも、場合によっては小学生だって聞いたことがあるでしょう。内容も「一日の労働時間を定めている」「休日を定めている」と多くの人が想像できる、とてもポピュラーな法律となっています。

 ですが、こんなにもポピュラーな法律なのに中身について熟知している人は決して多くありません。今後日本で生きていく為には絶対に必要な知識なのに勉強する場が少なく、また一部の経営者から見れば、あまり多くの人に中身を把握されても困るような内容が数多くあるからです。

 ここで、少し私自身の話をします。

 私は現在行政書士、社会保険労務士の他に社員を雇用することなく不動産管理会社を経営していますが、その前は社員とパートを併せて80人ほどの食品工場の代表取締役をしていました。通常のイメージでは代表取締役の業務というのは事業全体の統括管理であり、その事業を継続運営させるために戦略を練り、人材を配備し、収益を上げ、適切な設備へ投資し更に新しい戦略を練る・・・という感じだと思いますが、私は現場に入りびたりで事業運営に関する事はすべて幹部会で意見を募って決定していました。

 幹部会では従業員の雇用に関する事、配置に関する事、労働内容に関する事など今後の戦略についてあらゆることを打ち合わせていましたが、幹部の中には誰一人労働基準法をはじめとする労働法について理解している者はいませんでした。また、就業規則を読んだことがある者も幹部の半数位で私自身も軽く目を通したことがあるだけで、しかもその就業規則も20年も前に作成してから改正したことはありませんでした。

 幹部会では何とか利益を出すために様々な議論をしました。その中でも従業員の雇用や業務管理は固定費に直結する為、ほぼ毎回議題に上がりました。当然のことながら幹部会では会社を良くする為に従業員の雇用や業務管理の議論をしていたのですが、労働法規に反する決定をしてしまったことが数多くありました。

 例えば、事務職で雇用したが仕事の覚えが悪いので本人の意思に反して調理職へ異動させたり(労働基準法第2条違反)、繁忙期に特別条項付き36条協定をなさず45時間/月を超える残業を命令したり(同第36条の5違反)、当日朝に急に仕事がなくなって休業手当無くで休んでもらったり(同第26条違反)というようなことです。

 推測ですが、非常に多くの経営者、使用者が私と同様に労働基準法上の違反を悪意無く犯してしまっているのではないでしょうか。労働基準法は非常に重い罰則が付されている条項も多く、そして罰則を受けるのは当該法人とその経営者、使用者なのです。

 私は何度か労働基準監督署の立ち入り調査を受け、いくつもの指摘を受けてきましたが、幸いにして罰則規定の適用を受けることはありませんでした。しかし、労働基準法の罰則は非常に重く、中には”1年以上10年未満の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金(強制労働の禁止違反)”という量刑もあります。

 さすがに強制労働の禁止違反は悪意あってのことだとは思いますが、悪意が無くても無知によって労働基準法違反を犯し、罰則の適用を受けてしまうことになりかねません。

サラリーマンの方に言いたいこと

 労働基準法では主に次のような事が定められています。

  • 労働契約について
  • 解雇の規定について
  • 賃金の規定について
  • 労働時間について
  • 休日について
  • 時間外労働について
  • 有給について
  • 年少者、女性の働き方について
  • 就業規則について

 内容を全て暗記することは非常に困難です。暗記する必要はありません。会社や上司の指示命令がおかしいと思った段階で法令を調べてください。ネットで簡単に調べることが出来ます。労働基準監督署への問い合わせも無料です。

会社の経営者、事業主に言いたいこと

 まず、一通り労働基準法を知りましょう。知らなければ対策はできません。そして、罰則規定を見てください。かなり重い罰則があります。

 労働基準監督署の立ち入り調査があった場合、余程悪質な違反でなければ是正勧告等の行政指導に留まることが考えられます。その際にしっかりと違反を改善し監督署に報告すれば罰則規定を適用されないかもしれません。

 しかし、万一罰則規定を適用されてしまうと不動産業や建設業の許可がなされなくなったり、入札資格が得られなくなったり等の不利益が考えられます。そうなれば最悪会社の消滅という結果になってしまうかもしれません。

 インターネットが普及し、一般の労働者でも法令を簡単に調べることが出来ます。法令違反があれば、場合によっては弁護士を通して損害賠償請求をしてくるかもしれません。もちろん損害賠償請求の相手は法人はもちろん経営者、事業主、使用者個人にも及びます。経営陣でない一管理職であっても個人で責任を負う可能性も十分にあり得ます。心してください。

 今回は労働基準法に対する私見を書いて終わってしまいました。次回より個々の内容を紹介していきます。次回もよろしくお願い致します。